魔法少女は悪のとりこ


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その2





 ――普段はあんなに優しいのに、どうして彼女はブラッディクイーンなんてやっているのだろう。
 友里は一番それが疑問だった。妃としての彼女に関われば関わるほど、不可解さは増していく。
 でも彼女に面と向かって聞いたことはない。二人はあくまで平和を守る魔法少女と、それと相反する悪の存在という間柄なのだ。そういう後ろめたさもあって、何となく聞けないままでいた。
『こら友里っ! ぼさっとしてるといつまでも終わらんぞ!』
 杖じいの一喝が頭の中でバウンドした。友里は慌てて彼を構え直す。
 ブラッディクイーンとの戦いの最中だった。彼女の召還した蜂のような使い魔の大群に襲われ、今は猛スピードでそれから逃げているところである。
「よっしゃ! 害虫駆除の専門家、リリカルリリィに大変身っ!」
 急に立ち止まり振り返った友里は杖じいを巨大な殺虫剤スプレーへと変化させると、迫っていた使い魔の群れに勢いよく振りかけた。使い魔たちはたちまち散り散りになり、中心にいた本体らしき巨大な蜂の姿が出現する。
『今じゃ!』
「ここだぁっ!」
 手のひらから魔法で火の玉を放ち、そいつを焼き払った。すぐさま灰と化し、周りにいた細かな残党たちも消え失せた。
「ブラッディクイーンは!?」
 彼女のいた方角に目を走らせるが、例の如く彼女は遠くの方まで逃げているところだった。
「次回はこんなものじゃ済まないわよ、リリカルリリィ! 覚えてなさい!」
「また逃げた! 待てぃ!」
 使い魔を倒せばブラッディクイーンはとんずらをかます。もはやテンプレートのような流れである。
『ご覧ください! またもやブラッディクイーンは尻尾をまいて逃げていきます。毎度のことながら情けない姿です! 我らが正義、リリカルリリィを前に手も足もでなかったようですね』
 心ないテレビの実況が聞こえてきて、友里はぎろりとカメラを積んだヘリコプターを睨んだ。
『ど、どうしたんじゃ友里。正義の味方らしからぬ凶暴な顔になっとるぞ』
「あ、ごめん杖じい。ちょっと勝利の余韻に酔いしれていたというか……」
『どんな余韻の浸り方じゃ!』
 杖じいのつっこみは軽く流し、友里は小さくため息をついた。
 彼女は――ブラッディクイーンは、手も足も出なかったわけではないだろう。本気でリリカルリリィを倒そうというのならいくらでも手はありそうなものだ。現に戦闘はほとんど召還した使い魔たちに任せ、彼女自らが手を出してきたことはただの一度もない。
 ――きっと、あたしが怪我しないように、手を抜いてるんだ……。
 友里はそう思っていた。
「魔法少女として活躍する秘訣とはなんですか?」
「はい、朝昼晩の食事と過度な睡眠と、あと愛しのかにクリームコロッケを一日一つは食べることです!」
 テレビレポーターのインタビューに適当に答えながら、友里はずっと妃のことを考えていた。
 ――ねえ。あなた、リリカルリリィよね?
 ある日学校からの帰り道。横断歩道で信号待ちをしていたら後ろからそう耳打ちされた。
 驚いて振り返ると、陰の差した笑みを浮かべた女性が立っていた。その特徴的な笑い方から、すぐに彼女がブラッディクイーンだと感づく。
 そんな時に限って杖じいは家に忘れて居なかった。
 ――付いてきなさい。大丈夫、悪いようにはしないわ。
 怯える友里に、彼女はそう言ってきた。そのまま連れて行かれた場所こそが、彼女のマンションだったのである。
 部屋に通されるなり、いきなり唇を塞がれた。愕然としていた友里はされるがままで、心臓の音が今までにいないほど大きく聞こえていたのは覚えている。
「最初はね、いつも負けてる腹いせのつもりだったのよね」
 後になって彼女はそう語った。ちょっと驚かせるだけだったつもりだったらしい。
「でも友里の怯えきった顔を見たら何というかその、抑制が効かなくなってね。……まあ、言い訳なんだけど」
 結局キスの後は体にねっとりと触れられた。一応そういう存在は保健の授業等で知っていたが、何もかもが未経験だった友里には刺激が強すぎた。強すぎた故に、心に深く妃という存在が刻み込まれてしまったのだった。
 多分あたしはもう、妃さんなしでは生きていけない……。
 そう思う。だがかたや正義、かたや悪と、対立する概念の双方に二人は立っている。
 その二つが交わることなど、許されるわけがなかった。


「くぁっ……はぁっ……妃、さんっ……!」
 喘ぐ友里のつるりとした太ももからお腹まで、妃の唾液をたっぷり含んだ舌が這い上がってくる。服も下着も、とっくの昔に取り払われていた。
 友里は膝をつき、両手を妃の魔術が作った特殊な縄で縛られ、吊り上げられていた。ただそれだけなのに、体は妃の愛撫に対していつもより過敏になってしまっている。先ほど、手で静かに撫でられただけで頭が真っ白になったくらいだ。
「どうしたの友里。縛られて感じちゃってる? そんなに反応されたら、もっと苛めたくなっちゃうじゃない」
 そう言った妃は、丸出しになった友里の腋のくぼみに鼻先を埋めた。
「あっ……! そんなとこだめぇ!」
「今日は体育でもあったのかしら。蒸れて汗の香りが籠もっちゃってるわ。もう噎せ返っちゃいそう。ねえ、わかる?」
「ううっ……知らないっ、わかんないよぉっ」
 涙目になって首を振るうと、あろうことか嗅いでいた場所を妃が舌で舐め始めた。限界に達した羞恥が鋭く脳天を突く。じたばたともがいた。
「やだっ! 妃さんやめてっ! 汚いよぉっ……!」
 言葉とは裏腹に、友里の吐息は甘さをはらんでいく。
「本当に嫌なの? 苛めるほど喜んでるくせに」
 妃の手が内腿の辺りに忍び込んでくる。てっきり秘所に触れてくるのだと思っていたら、ただ足の付け根を行ったり来たりするだけだった。溢れた蜜はそこまで汚しているらしく微かに粘ついた感触がある。触れられることへの期待が高まって、友里は今にも爆発しそうだった。
「どう、友里。触ってほしい?」
「うん……触って。妃さんの指、欲しいよぉ……」
「それなら、ちゃんと私にもしてくれないと……ね?」
 ラフな格好の妃は履いていたジーンズを脱ぎ、紫の大人っぽいショーツも外した。それから椅子を持ってきてそこに片足を起き、自らの淫裂を友里の顔の前に突きつけてきた。
「あぁっ……」
 感嘆のため息が出る。濃く繁った性毛の下、充血して鮮やかに色づいた二枚の花びらが見えた。妃が指先でそれを開くと、真っ赤に爛れた果実が現れ、果汁がとろりと床に滴る。甘酸っぱい香りが、友里の嗅覚を満たしていく。
「んんっ、妃さん……」
 言われずとも、友里は妃のソコを舌で舐り始めた。あまりの熱さに火傷するかと思った。襞の内側などに溜まった蜜を掬い取り、呑み下す。
「んっ、いいわ……上手よ、友里……」
 妃の太ももが震える。ちゃんと感じてくれているようだった。嬉しくなって更に愛撫を大胆にしていく。濡れそぼった粘膜をかき乱し、淫裂の上部にあるつんと尖って顔を出している新芽のような棘に口づけをした。
「あぁっ! 友里、やめないで……やめちゃだめっ……いっちゃいそう……っ!」
 妃の切なさの滲んだ呟きを受け、追い立てるように舌を激しく動かした。ぐちゅ、じゃぶっ、と泡立つ水音が鳴り響いていく。
「はぁっ! 友里っ! いっちゃうわっ……! いくぅ……っ!」
 不意に妃はのけぞって大きく体を振るわせた。力が抜けたらしく崩れるようにその場にへたりこむ。桜色に色づいた顔は快楽の波の余韻を噛みしめていた。
「友里さん……気持ちよかった?」
「ええ……すごかった……。よくできたわね、友里」
 キスをされた。ご褒美とでもいうように、友里の唇を愛してくれる。妃とのキスが、友里は大好きだった。
「さて、次はあなたね。……ほら、さっきよりもすごいことになってるわ、ここ……」
「あんっ……妃さん……」
 細い指先が秘所をくすぐってくる。友里は狂いそうなほどの快感に酔っていった。


「ねえ、友里。私たち、こうやって会うのは何回目かしらね」
 毎回の如くシャワーに入った後まったりしていると、ふと妃がそう尋ねてきた。ソファにだらしなく座った友里は指を折ってみる。
「どうだろ……わかんないけど、多分数え切れないほどじゃないかな?」
 笑いかけるが、隣に座る友里は深刻な様子で俯いていた。どうしたのだろう。
 彼女は意を決したように口を開く。
「ねえ、リリカルリリィ。そろそろ私たちも、決着をつけましょう」
「えっ……?」
 突然の言葉にたじろぐ。冗談ではなさそうだった。
「妃さん、それってどういうこと……?」
「辛いのよ……これ以上一緒に過ごしていたら、きっと私はもうあなたと戦えなくなってしまう」
 目を逸らす妃。彼女も相当揺らいでいるようだ。
 どうして? あたしたちが戦う必要なんて、ないような気がするのに。……あたしは、妃さんと、もう戦いたくない。
「……妃さん。妃さんは何でブラッディクイーンをやっているの」
 聞いてみる。こうして立派な人間の姿を持っているのに、何故彼女は諸悪の女王として降臨するのだろう。ずっと気になっていたことをようやく聞けた。
「……それは私自身がブラッディクイーンであり、悪という象徴だからよ」
 ――私は、元々人間ではないの。彼女は語る。
 人間の破壊衝動や悪意などの負の感情が形を成し、人の姿となったもの。それが、ブラッディクイーンなのだという。北条妃はあくまで人間の世界に馴染みやすくなるための仮の姿なのだ。
「私は悪、そのものなの。だからあなたが正義の味方、リリカルリリィならば、私たちは戦うしかない。そういう運命なのよ」
「そんな……。あたし、わかんないよ。だって妃さんは、あたしに優しくしてくれるよ? 悪そのものだとしたら、どうして……」
「……それはきっと、あなたのせいよ」
 友里の頬にふわりと触れて、妃は微笑む。今までのどの瞬間よりも、その笑顔は慈愛に満ちていた。
「妃さ……」
「さあ、もう遅いから送るわ。支度しなさい」
 これで終わりとばかりに妃は立ち上がってしまう。
 帰りの車中では、二人は一言も言葉を交わさなかった。



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