魔法少女は悪のとりこ


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その1





 昼十二時を過ぎ、軽やかなチャイムの音の鳴り響く花ヶ丘小学校。心なしか新築の校舎も日に当てられて生き生きとしているみたいに見える。
 五年生の教室内は、待ちに待った給食の時間ということで子供たちも浮き足立っていた。
「ごはん、ごはんっ!」
 机の上にランチョンマットを敷いて鼻歌交じりにそう言う高山友里(たかやま ゆり)は、その中でも特に上機嫌である。何と言ってもこの時間のために学校に来ているようなものなのだ。
「友里ちゃん、楽しそうだね」
 友人の瑞香(みずか)が声を掛けてくる。友里はにこにことしたまま彼女を振り向いた。
「だってさぁ、今日はあたしの好きなカニクリームコロッケの日なんだよ。もう今朝からずっとそのことばっかり考えてたんだぁ」
「ふふ、そうなんだ」
 給食を盛ってもらう列に並び、いよいよ友里の器に目的のカニクリームコロッケが乗る瞬間だった。
 ドンッ! と遠くから爆発音が轟き、校舎が震動する。悲鳴が上がって、教室内は軽いパニック状態になる。
「な、何……!?」
 よろけた友里の頭の中に、直接声が流れ込んでくる。少ししゃがれた老人の声だ。
『友里、大変じゃ! 北の方角から、邪悪なエネルギー反応をキャッチした! 今すぐ駆けつけるのじゃ!』
「えー? コロッケ食べてからじゃダメ?」
『時は一刻を争う! コロッケなど後回しでええじゃろうがっ!』
「はいはーい。わかりましたよ、杖じい」
 気だるく返事をした友里は、首に掛けていたペンダントを取り出した。指の先ほどに縮小されたステッキが先についている。これこそ先ほどの老人の声の本体であり、友里は「杖じい」と呼んでいた。
 そのまま杖じいを握りしめ、友里は開け放った窓枠に足を掛ける。
「友里ちゃん! 今日も戦うの?」
 後ろから瑞香が声を掛けてきた。心配そうな彼女に、びっと立てた親指を向けてやる。
「うん! 大丈夫、ぱぱっと倒してくるから」
 そう言って友里は窓から飛び立った。
『友里、変身じゃ!』
 頭の中で杖じいが叫ぶ。
「おっけい、杖じい! チェンジマイマインド!」
 そのかけ声を合図に、友里の体が光に包まれる。途端にふわりと浮かび上がり、光が解けた時には友里は白をベースにしたフリルの多い衣装を身に纏っていた。サイドテールにしていた髪は柔らかなピンク色に染まる。
「変身完了じゃ! リリカルリリィ!」
 杖じいはバトンほどの大きさになって手の中に治まっていた。彼が友里にとっての武器なのである。
「よっしゃ、早急に行きますよっ!」
 ぐっと足に力を込めると、すさまじい早さで友里は北の方へと飛んでいく。
 これが友里のもう一つの姿、戦う魔法少女リリカルリリィである。
 邪悪なエネルギー反応のあった場所は、街のど真ん中だった。煙があがっている建物などがあるが避難は完了しているらしく、怪我人はいないようだ。
 プロペラの音がしたので見ると、報道のヘリコプターが遠くの空を飛んでいた。
『来ました! 我らが救世主、魔法少女リリカルリリィです!』
 杖じいを介して繋がっている電波が、たった今リアルタイムで放映しているであろう実況を捉えていた。友里はヘリコプターのカメラに向かってにっこりと手を振ってから、高度を下げた。
 宙に浮かんでいる、もう見慣れてしまった人物と一直線に並んだ。
「やはり来たわね、リリカルリリィ」
 そう呟いた彼女は不敵な笑みを浮かべた。
 通称諸悪の女王、ブラッディクイーンだ。
 世界の秩序を破壊しようと企む、いわばリリカルリリィの敵であった。
 胸元が大きく開き、スカートはチャイナドレスのように深くスリットが入っていて、その豊満なボディを十分にさらけ出した赤いドレス姿。友里もじっと見入ってしまっていた。
『こら、友里! ぼさっとしとる場合じゃないぞ!』
 杖じいに言われて我に返った友里は、彼をくるくるとバトンの如く器用に回して彼女に突きつける。
「ブラッディクイーン! 今日こそあなたの企み、正義の力で散らしてあげる!」
「ふふ、できるものならやってみなさい」
 ブラッディクイーンが腕を振りあげると、どこからかトラのような生き物が二匹躍り出てきた。半透明のその体は、彼らがブラッディクイーンの呼びだした使い魔であることを示している。これで先ほど街中を荒らしていたのだろう。
「行け! お前たち!」
 ブラッディクイーンの叫びを合図に、使い魔たちは何もない空を踏みつけながらまっすぐにこちらに迫ってきた。
「杖じい!」
『うむ、わかっておる!』
 手の中の杖じいが、巨大な弓の形に変化した。杖じいは変幻自在の魔法道具なのである。
 友里は弓を引き絞り、しっかりと狙いを付けてから光で出来た矢を放つ。ところが使い魔たちはいとも簡単にそれをかわしてしまった。
「えっ、うっそぉ!」
 しょげている暇もなく、敵は目前に迫っていた。鋭い牙を剥き飛びかかってくる。友里はステッキを剣状に変化させてそれを受けた。使い魔は刃に食らいつく。
 もう一方の使い魔も横から襲いかかってきた。
「シールド展開!」
 友里に噛みつこうとしていた使い魔の動きが、見えない何かに阻まれる。魔法で作った、見えない防壁だ。
「ぐぬぬっ……」
『いたたたっ! こいつ、離せ! 離さんかい!』
 敵の攻撃を受けたとはいえ、はっきり言って硬直状態だった。杖じいも噛みつかれているために使うことができない。
 普段から我慢強くない友里は、すぐに限界を迎えた。
「メンドくさぁあああいッ!」
 そんな怒号と共に体を囲むように現れた光の矢が四方八方に放たれた。
 使い魔たちはそれに射貫かれ、ガラスが割れるように砕けて消えていった。
「よしっ、勝った!」
 杖じいを元のステッキ形状に戻すと、再びブラッディクイーンの方に向ける。しかし彼女は既に飛び去ろうとしているところだった。
「リリカルリリィ、この勝負、お預けにさせてもらうわ」
「あっ! こら待て!」
「それじゃあ、アディオス」
 ひときわ高く跳躍したかと思うと、もう彼女の姿は見えなくなっていた。
『ちっ、また逃げられたか。相変わらず逃げ足だけは早い奴じゃ』
 杖じいがため息交じりに言う。
『ん? どうやらまたマスコミの連中が、いつもの如くお主の話を聞きたいらしいぞ』
 ヘリコプターの音が徐々に近づいてきて、髪がはためく。友里は、じっとブラッディクイーンの消えた方角を見つめていた。
『友里? どうかしたのか?』
「ん、あ、いや、何でもない。インタビュー、だったっけ」
『そうらしいぞ。何じゃ、最近のお主はぼーっとしてるな』
「えへへ、ごめん」
 ヘリの方に向かいながらも、友里はもう一度振り返る。
 消える直前、ブラッディクイーンはさりげなく友里に目配せしてちろりと舌舐めずりした。
 あれは、サインだった。彼女と、そして自分だけしか知らない合図。
 鼓動が僅かに高鳴っている。不穏ではなく、その音は期待に震えていた。


 その後、戦闘後のインタビューをこなした友里は、魔法の力で壊された所を完璧に直して、学校へと戻った。
 魔法少女リリカルリリィとしての活動は公然の事実であり戦いの際、多いときにはかなりの報道者が駆けつけることもあった。もっとも今のところ敵はブラッディクイーンのみで、そこまで戦闘の回数は多くないのだが。
 それでもテレビで放映されたことをきっかけに、ファンとも呼べる人たちが段々増えてきていた。ヒーローというよりは、ほとんどアイドルのような扱いである。
 午後の授業には何とか間に合ったが、結局集中しきれずに友里は窓の外ばかり眺めていた。ブラッディクイーンのことが、ずっと頭をよぎっていたのだ。普段の騒がしさがまったくないため、瑞香にも「戦いの時に怪我でもしたのか」と心配された。
『どうしたんじゃ? ブラッディクイーンに何かされたのか? 呪術を掛けられた反応は見られぬが』
 杖じいまでそう言ってくる始末だった。友里は首を振るう。
「いや、ちょっと疲れちゃったのかも。えへへ……」
 無難にそう答えてごまかす。
 ブラッディクイーンに何かされたといえば、おそらくされたのだろう。もっとも友里は、それを誰にも言うつもりはなかった。
 帰宅した後、夕食を終えた友里は遂に堪えきれなくなり午後六時になりきる前にこっそりと家を抜け出していた。
 Tシャツにショートパンツというラフな格好で街を歩く。沈み始めた太陽があちらこちらに建物の影を作っていた。友里は既に通い慣れた道を、押し黙ったまま歩いていた。
 いつも首から下げている杖じいも家に置いてきた。もし友里がこんなことをしていると知ったら、彼はきっと怒るだろう。
「……ごめんね、杖じい……」
 やがて、目的地であるマンションが見えてきた。どことなく高級感のある外装で、家賃もそれなりに高そうな場所だ。友里は受け取っていた鍵を使って玄関のセキュリティーをくぐり、エレベーターで上の階に向かう。
 目指していた部屋の前で、今更友里は戸惑ってもじもじしていた。インターホンに指をかけようとして固まってしまう。
 ――何でいつも、躊躇しちゃうんだろう。早く会いたい。会いたいはずなのに……。
 不意に目の前の扉が開いて、思わず飛びのいてしまった。
「……やっぱり。予想通りの時間ね」
 黒のパンツスーツを着た女性が、そこに立っていた。長い髪を後ろで団子状に纏めていて、薄い化粧の施された顔は端正で大人の色気がある。
「あっ、妃さん……」
 友里は惚けたまま彼女を呼ぶ。北条妃(ほうじょう きさき)。それが彼女の名前だった。
「あなたのために早めに仕事を切り上げて、今帰ってきたところなのよ。……さあ、上がって?」
 手招きされ、吸い込まれるように友里は扉の向こう側へ足を踏み入れた。
「っ……!?」
 後ろで扉が閉まる音がしたと同時に、腕を引かれ唇を奪われていた。
 背の高い彼女に押さえ込まれて、その胸のあたりまでの身長の友里は身動きがとれない。もっとも、あらがうつもりなど毛頭もなかった。
「んふっ……ふぁっ……」
 上下の唇を啄んでから、彼女は友里の小さな口に舌を潜り込ませてきた。いたるところを丁寧に舐められ、全身がふやけていくようだった。
「あら、大丈夫? まだキスしかしてないけど?」
 膝からかくんと力の抜けてしまった友里を、彼女が抱きとめる。まだ小学生の友里にとってはキスだけでも十分刺激が強すぎた。
「……もっと。もっとキスして、妃さん……っ」
「ふふ、もうその気になっちゃったのね。ここでしてもいいけど、せっかくだからお部屋に行きましょう。ねえ、友里?」
 そう言って彼女は妖しく艶やかな唇の端を持ち上げる。その笑みは、先ほど友里が戦っていた相手――ブラッディクイーンそのものだった。


 夕焼けの気配が残る広く薄暗い部屋。二人は何をするよりもまずニ度目の口づけをしていた。積極的な妃に応えようとするが、友里の短い舌では上手くいかず彼女の舌の方に絡めとられてしまう。
「ふぁぁ……妃さん……」
「ふふ、正義のヒロインも、私のキスの前では形無しってところかしらね」
 ブラッディクイーン――改め、妃は口の端を汚した唾液を舐めて笑う。二人とも、お互いの正体に関しては承知の上だった。人間状態の彼女は三十歳のキャリアウーマンだという。
 邪魔なスーツのジャケットを床に落としてブラウス姿になった妃は、膝をついて服を着たままの友里に顔を密着させてきた。
「ん、ひょっとしてシャワー浴びてきた? 石鹸のいい香りがするわ……」
 言われて友里は顔を赤らめる。これでは触られるのを期待してきた、と言っているのと同じようなことだ。妃は煽るようにわざと臭いを嗅ぐ音を鳴らし始める。
「これも好きだけど、やっぱりあなた本来の匂いがいいわ。……次からは、シャワー禁止よ。いいわね」
「う、うん……」
 甘い口調の命令に、惚けたまま友里はこくんと頷いた。
「いい子ね……」
 妃の舌が首の表面を下から上へとねっとりなぞっていく。寒気のようなものが体を駆け抜けた。
「立ったままじゃ集中できないでしょう。ほら、こっちに座って」
 黒色の高そうなソファに導かれた。友里が腰掛けると、妃はその正面に屈みこむ。それで大体目線の位置は同じくらいになった。
「じゃあこれ、脱いじゃいましょう」
 Tシャツが引き抜かれ、友里の肉付きの薄い半身がさらけ出される。妃は両手をそっと滑らせてきた。ひんやりした感触に皮膚が痺れるようだ。
「んっ、くっ……く、くすぐった……」
「子供の肌って不思議よね。何でこんなに手に馴染むのかしら」
 指先が微量な力で肌をくすぐる。そして次に、唇で強く吸いついてきた。
「はんっ! あうっ……」
「キスマーク、つけてあげましょうか? ふふ、お友達に見られたら大変ね」
「や、やだ、やめて……」
「冗談よ」
 続けざまに突き立てられた舌が円を描き始める。水気を帯びたしなやかな感触は、くすぐったさとは別の感覚を生み出した。
「ブラ、まだしないの?」
 膨らみ始めた、ともまだ言えない胸の辺りまでやってきて、妃が聞いてくる。
「だってあたし、全然ちっちゃいし……」
「そう。じゃあ付けないといけないくらい、敏感にしてあげるわ」
「はぐっ……!?」
 色素の薄い胸の突起を、舌で捉えられた。友里は大きくのけぞる。しかし容赦なく妃は動きを荒めてきた。
「んくっ、あっ、あっ……」
「固くなってきた。ほんと、素直で可愛い乳首ね」
 時間をかけたっぷり責め立てられ、友里は息を切らせてぐったりとソファにもたれかかる。
「まだよ、友里。次はほら、こっち」
 にやりと笑った妃が、友里のショートパンツを取り払う。その下に履いていたシンプルなショーツはぐっしょりと湿っており、真ん中から色濃くなっていた。それをめくるように脱がされると、透明な糸が布と足の間から引いて友里は顔から火が出そうになった。
「……お待ちかねかしら? ほら、足を上げて。もっとよく見せなさい」
 立てた膝に手をかけ、妃は大きく友里の足を開いた。
「やだぁ! 見ちゃだめぇ……!」
 必死に体をよじっても無駄だった。張り付くような妃の視線が股間に浴びせられる。死ぬほど恥ずかしいはずなのに、それとは真逆に甘い疼きがお腹の奥に生じる。
「うふふ。あのリリカルリリィが、悪者の私の前で足を開いてるって知ったら、みんなどう思うでしょうね。……ああ、本当に綺麗。まだ産毛も生えてないのね」
「言わないでぇ……っ」
 両手で顔を隠す友里。これ以上羞恥に晒されたらどうにかなってしまいそうだった。
「んはぁっ!」
 突然、予告もなしにソコを生ぬるいもので擦り上げられた。妃が友里の幼い秘裂を舐めだしたのだ。
「とろとろね……もうすっかり大人の仲間入りじゃない……」
「んあぁっ、はぁぁっ……!」
 優しく触れられているはずなのに、それは意識を揺るがすほどに強い刺激となって友里を支配する。広げた薄肉の花びらを吸い、中の粘膜を汚す蜜を啜り、蜜を吐き出す花弁に舌を突き入れる。目が回りそうだ。
「もうっ……だめぇっ。妃さんっ死んじゃうよぉっ……!」
 割れ目の先、顔を出していた小さな肉粒に、妃の舌先が引っかかった。
 瞬間友里の中で何かが弾けた。押し寄せる強烈な快楽に耐えられず、全身ががくがくと痙攣する。
 世界が暗転し、そのまま友里は意識を失った。


「ふあぁ、極楽極楽」
 それから。シャワーを借りた友里は濡れた髪を妃に乾かしてもらっていた。髪を撫でる指先とドライヤーの温風が、何とも心地よい。
「どこか痛むところはない?」
 妃が穏やかな声で尋ねてくる。強いて言うならば程良い気だるさが残っているくらいだった。友里は頷く。
「うん、平気。ばりばり元気だよ」
「そう、よかったわ」
 ドライヤーの音が消える。すると、妃が耳元に顔を寄せてきた。
「さっきは激しくしちゃってごめんなさいね。……でも、友里が可愛すぎるのも悪いんだからね?」
 吐息混じりの艶やかな囁き。微かに鳥肌が立つのを感じる。
「そういえば時間、大丈夫? もう夜になってきたけれど」
 言われて壁に掛けられた時計を見ると、既に八時を上回っていた。慌てて立ち上がる。
「わわっ、帰んないと。そろそろ抜け出したのバレちゃうかも」
「それじゃあ、送っていってあげる。車出すわ」
 車のキーを持ち出した妃が、一足先に玄関へと向かう。シャワーも借りてしまったし、さすがにそこまでしてもらうのは気が引けた。
「えっ、いいよいいよ妃さん。あたし、一人でも帰れるから」
「暗くなった道を、小さな女の子一人で歩かせる訳ないでしょう。見られたらまずいから近くまでだけど、それは勘弁してね」
 彼女は大人の女性らしく余裕のある笑みを差し向けてくる。そこに諸悪の女王と呼ばれているあのブラッディクイーンの面影はない。思わず友里はその背中に抱きついてしまう。
「ありがとう妃さん。……好き」
「……もう。そんな可愛いこと言ってたら、また襲っちゃうわよ? ほら、早く行きましょう」
 妃に手を引かれて、友里は部屋を後にした。



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