ブローカーズ・キーパー(悪魔のリドル/兎晴)
8.一ノ瀬晴は約束を破る
監視カメラの映像内で異変が起こっていた。ガラスが砕け散り、周りの物がどんどん破壊されていく。銃によるものだと晴にはすぐわかった。誰の攻撃かはわからない。一瞬だけちらりと、銃撃をかわしている兎角の姿が映った。
(……兎角さん!)
今すぐ彼女の元へ駆けつけたかった。しかしそうしたとしても、今の自分では彼女の足手まといになるだけだろう。いくら武器を生み出せるといっても、晴自身はそれを使いこなすことはできないのだ。
だが自分を守ってくれている人が、目の前で危険に晒されているのだ。何か、何か自分にできることはないだろうか。
ふと、ノイズが走ったかと思うとぷっつりと映像が途絶えてしまった。同時に建物自体が大きく振動し、晴はよろけて床に手をついた。
何かあったのだ、と思った。もう我慢できない。晴は部屋を飛び出し、兎角の元へと向かう。
――もしもの時は、一人で脱出するんだ。
階段を下りながら、兎角の言葉を思い返す。
(……ごめんなさい、兎角さん。その約束は守れない)
両親の顔が頭をよぎった。晴を守るために、彼らは自分たちの命まで犠牲にした。最後の瞬間は、未だに悪夢となって蘇る。
(晴はもう、自分のせいで誰かが死ぬのは嫌だ……!)
目的の階の扉は、無理矢理押し出されたかのように壁ごとひしゃげていた。爆発か何かあったらしい。焦燥感が募る。
ドアノブを捻っても扉自体が曲がっているせいで開かない。思い切り体当たりした。びくともしなかったが、開くまで続けるつもりだった。
(兎角さん。あなたは絶対、晴が死なせない)
身構えて、晴は再び扉にぶつかった。