ブローカーズ・キーパー(悪魔のリドル/兎晴)


BACK / TOP / NEXT


5.犬飼伊介と寒河江春紀は指令を受ける





 傍らに置いてあった携帯が震えた。犬飼伊介は声を抑えつつ手を伸ばす。するとその手を掴まれ指を絡められた。寒河江春紀だ。
「おい、伊介。携帯なんて後にしなよ。今始めたばっかりだろ?」
 伊介の体に覆い被さっている春紀は不敵に笑い、舌先で首筋の辺りをなぞり始めた。伊介はこそばゆさに体を捩る。二人ともベッドの上で、何も身に纏っていない状態だった。
「ちょっと、やめなさいよ。上の連中からの指示かもしれないでしょ。それに伊介じゃなくて、伊介さま、なんだけど?」
「へいへい伊介さま。じゃあ終わってから確認しろよ」
 春紀は聞く耳を持たず、伊介の芽吹いた胸の先を口に含んだ。中で転がされて、短く矯声を上げてしまう。一瞬続けてもいいかと思ったが、結局伊介は春紀を押し退けた。体を起こして携帯を手にする。
「何だよ伊介さま。あたし、もうスイッチ入っちゃってんのにさぁ」
 お預けを喰らった春紀はあからさまに不貞腐れる。無視して、携帯に届いたメールを開く。そして伊介はにやりと笑った。
「どした? 朗報か?」
「んー、そうみたいねぇ」
 春紀にメールの文面を見せつける。
 ――ブローカー、一ノ瀬晴に大きな動きあり。即刻捕獲せよ。護衛が一人ついているので注意。護衛は殺しても構わない。
「……何だこれ。ブローカーって、いろんな武器を生み出せるとかって噂の奴だよな」
「そう、そのブローカー。伊介たちにこんなの送ってくるくらいだから、上の連中は相当こいつのこと欲しがってるみたいねぇ」
 実際に武器を生み出せるというなら、いくらでも利用価値はある。つまりブローカーを捕まえて連れていけば、それ相応の莫大な報酬が支払われるということだ。
「んー、でもたった一人の護衛に注意って、何か引っかからないか。大丈夫なんだろうな」
「関係ないない。そいつをぶっ殺してブローカーを捕まえればいいんでしょ? ちょろすぎじゃない」
 伊介は立ち上がって散らばった衣服を身に纏い始めた。さっそく居場所の特定にかかるつもりだ。
「あんたはいつも通り手を出さないでよ。これは伊介の獲物なんだから」
「ああ、わかったよ。……なあ、伊介さま」
「んー、何よ……」
 振り向いた瞬間に唇を奪われた。舌をねじ込まれ、ねっとりとした動きで口の中を堪能される。濃厚で少し長めのキス。伊介は腰から崩れ落ちそうになった。
「ちょっ、いきなりするなっていつも……」
「油断するなよ。今回は少し勝手が違う気がする」
 目の前の春紀は真剣な表情でそう言った。彼女がそんな顔をするのは珍しい。独特の嗅覚で、何かを感じ取ったというのだろうか。
 ところがすぐに、春紀の表情は緩んだ。
「それとお預けされた分、次は一日中付き合ってもらうから覚悟しなよ」
「……バッカじゃないの」
 赤くなった顔を隠して背を向け、伊介は部屋を出た。以前春紀に立てなくなるくらいまで攻められたことを思い出したのだった。
(……一ノ瀬晴、ね)
 自ら生み出した武器で大量殺戮までやってのけた人物。そしてその護衛。一体どんな奴らなのだろう。
(ま、伊介は負けないからいいけど。ちゃちゃっとやっちゃおうっと)
 あまり深く考えないようにして、伊介は歩を進めるのだった。



BACK / TOP / NEXT



inserted by FC2 system