ブローカーズ・キーパー(悪魔のリドル/兎晴)


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エピローグ
一ノ瀬晴は問いかける 東兎角は答えを出す





 まっすぐに伸びた道が果てしなく続いていた。晴は助手席の背もたれに寄りかかってそれを見つめている。運転席の兎角はハンドルを握ったまま運転に集中していた。もうどれくらい走っているのだろう。
「……ねえ、兎角さん」
 晴は口を開いた。兎角が横目でちらりと視線をやる。
「どうした?」
「晴のことが面倒になったら、いつでも捨てて一人で逃げちゃってもいいからね」
「……いきなり何を言い出すんだ」
 兎角が眉を顰めた。
 まだ出会って二日も経っていないが、兎角はもう数え切れないほど危険な目に遭っている。それが自分のせいであると晴は気づいていた。
(……晴も、兎角さんには死んでほしくないから)
 晴は目を閉じて兎角が何か言い出すのを待つ。やがて聞こえてきた彼女の声は、驚くほど澄み渡っていた。
「捨てたりなんかしないよ。私は晴、お前を最後まで守り抜くつもりだ」
 花が咲いたようだった。今まで空虚だった胸の内に、鮮やかな花が。
「私は今まで、いろんなことから目を逸らして生きてきた。だがもう逃げるのはやめる。だからお前も、もう自分から逃げるな」
 兎角の手がそっと晴の髪に触れた。それがあまりにも優しくて、晴はうっとりとしてしまう。
(研究所へ行こう。そこに行けば晴のことが、少しはわかるかもしれない)
 今まで考えないようにしてきたブローカーとしての自分自身を、改めて見つめ直すために。まだ、歩むべき道がそこにあるから。
「うん、晴はもう逃げないから――兎角さん、隣にいてくれるかな」
 問いかけると、兎角が笑い掛けてきた。彼女の笑顔を見たのは初めてかもしれない。太陽の光を浴びて、きらきらと輝いていた。
「ああ。ここにいるよ」
 その答えに、晴も自然のまま微笑んだ。
 車は走っていく。この先に一体何が待ち受けているのか、まったく想像もつかない。
 だが晴は、もう何も恐れてはいなかった。
(だって。かけがえのないものが、できたから)
 一度掴んだものは、もう離さない。離しちゃ、いけない。
 晴は翳した手のひらをぎゅっと握りしめた。

 THE END



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