ブローカーズ・キーパー(悪魔のリドル/兎晴)
おまけ
このあと考えていた展開とか
千足と柩
「君たち、あの研究所に侵入するつもりか?」
生田目千足と名乗った彼女は神妙そうな面持ちで尋ねてくる。兎角たちは頷いた。
「それなら、私にも手伝わせてくれ。足手まといにはならないと思う」
「どうして、ですか?」
晴が首を傾げる。どうして協力するのか、という意味だろう。千足はわずかに迷った後、打ち明けた。
「あそこに女の子が捕らえられている。――桐ヶ谷柩、という名前だ」
彼女を助け出したいのだと、千足は語った。
しえなと乙哉
鉄格子を潜って、剣持しえなは薄暗い通路を歩く。すると、鉄でできた分厚い扉が現れる。看守に渡された鍵で開いた。
中には少女がいた。ベッドに座って何やら熱心に読み耽っている。今朝司令官が言っていた捜査資料だろう。
「あっ、しえな。丁度今、読み終わったところだよ」
顔を上げた彼女は微笑んだかと思うと、しえなに駆け寄ってきた。そのまま二人は抱きしめ合う。
「悪い、乙哉。迎えに来るのが遅くなったな」
「いいよ、気にしないで。信じてたからさ」
乙哉は凶悪犯専用の独房に入れられている、シリアルキラーなのだ。彼女と単独で会うことが出来るのはFBIの特殊な人間――つまり今のしえなくらいである。
「今回の任務って、そのブローカーってやつを殺すってことだよね」
「ああ。それが終われば、釈放してもらえるかもしれない」
乙哉の自由。それが二人の長年の夢だったのだ。
「だが相手は白昼堂々無差別殺人なんてやらかす奴だ。乙哉、大丈夫そうか」
「ふふ、平気だよ。もう、しえなは心配性だなぁ」
彼女が笑う。まるで研ぎたての刃物のように危うい笑みだった。
「ちゃんとバラバラに切り刻んでやるからさ。会えるのが楽しみだなぁ、一ノ瀬晴ちゃん」
香子と涼
「あまり下手に動かない方がいいぞ――地雷が埋め込んであるからな」
神長香子という少女に言われ、兎角と晴はぎょっと地面を見つめた。どこに地雷があるのか、まったく見当もつかない。
「残念だったのう。正に絶体絶命の危機という奴じゃ」
香子の隣に立つ首藤涼が口元を歪める。兎角は二人を睨みつけた。
「……どうするつもりだ。このままじわじわと嬲り殺しにするか」
「そんなつまらない真似はしない。一気に片をつけてやる。……首藤」
「おう、香子ちゃん」
香子に促された涼が、何かのスイッチを押した。途端に目の前の空間で爆発が巻き起こった。
真夜と純恋子
「あらあら。逃げ足だけは速いんですのね」
耳に装着した小型のヘッドセットから声が流れ出す。先ほど襲ってきた、英純恋子という少女だ。
兎角はバイクのアクセルを全開にする。スピードが上がり、後ろの晴が強くしがみついてきた。
「ああ。さすがにお前一人じゃ、もう追いつけないだろう?」
余裕を見せたつもりだった。ところが純恋子は、意味ありげな笑い声をあげる。
「せっかちな方ね。誰が、一人だなんて言ったかしら」
彼女が言った直後に、兎角たちのバイクの横へワゴン車が飛び出してきた。後部座席の扉が一気に開く。
「待たせたな、お前ら――」
顔に傷のある少女がそこに立っていた。彼女が構えているのは、銃座に固定されたガトリング砲だった。
「――殺りにきたぜぇぇぇ!」
鳰と兎角
「まったく。どうやったらこんな事態になるんスか?」
マシンガンを携えた鳰が苦笑する。兎角も同じ銃を持っていた。
二人の目の前の扉――その向こうには、軍の兵士たちがかつてないほどの数で押し寄せているはずだ。
「あんたらに関わってると、ほんと命がいくつあっても足りないっスよ」
「文句なら追ってくる奴らに言ってくれ。私たちのせいじゃない」
「まあ、そうっスね」
突如、扉が吹き飛んだ。ライフルを構えた兵士たちが一気になだれ込んでくる。
鳰がにやりと笑った。
「それじゃあ、ゲーム開始と行きますか!」
春紀と伊介
晴の手を引いて屋上へと出た。星のない夜空を、いくつもヘリが通り過ぎていく。ものすごい騒ぎになっているようだ。だがここに兎角たちがいるのには気づいていないらしい。
「晴、こっちに……」
動き出そうとしたとき、前に誰か立っていることに気が付いた。見覚えのあるシルエットに愕然とする。
「あらぁ? どこに行こうとしてるわけ?」
両手にナイフを構えているのは伊介だ。そして、ここに彼女がいるなら――。
「随分久しぶりじゃないか、東兎角」
頭上から声が聞こえた。給水塔の横に、春紀が立っていた。
「前に約束したよな? 次は、本当に殺るって」
彼女は銃をこちらに向ける。いつか見たのと同じ、イングラムm10だった。懐かしさすら込み上げてくる。
「”Now is the time”今が、その時だな」
兎角たちを捉えた銃口から、閃光が飛び出した。