艦隊これくしょん


BACK / TOP / NEXT


ゆうさみ+他の艦娘詰め

にたものどうし




「あっ」
「あっ」
 暇を持て余して談話室に赴くと、先客がいた。
 夕張だ。彼女は紙コップのアイスコーヒーを片手にソファでくつろいでいるところだった。
「由良じゃん。今日演習あったんじゃなかったっけ?」
「もうとっくに終わらせたわ。今日はもう一日フリー。そういうあんたはこんなところで油売ってていいわけ?」
「私はちょっと息抜きをね。いやぁ、研究室に籠もりっきりだと肩が凝っちゃうからさぁ」
 夕張が肩をぐるぐると回してみせる。由良は近くにある自動販売機の前に立ち、彼女と同じアイスコーヒーのボタンを押した。ここに所属している者ならお金は必要ない。ほとんど販売機の役目を為してないものだった。出てきたコーヒーを持って、夕張の隣に腰を下ろした。
「てか、五月雨ちゃんは? 今日は一緒じゃないの?」
 そう尋ねると、急に夕張の顔が活き活きとし始めた。
「ん? 五月雨ちゃんは今秘書艦の仕事中だけど。何、あの子の話聞きたいの?」
「いや結構。あんたのノロケ話はもう散々聞かされたから。そう、五月雨ちゃん、秘書艦の仕事頑張ってるのね」
「ちぇっ。……まあ、そうみたいね。結構やることが多いみたいで、昼間はなかなか会えないんだよね」
 そう言った夕張は目を伏せる。本当は一日中でも一緒にいたい心境なのかもしれない。まあ彼女たちにも色々あったみたいだし、気持ちはよくわかる。由良はコーヒーを口に運ぶ。
 不意に夕張が口を開いた。
「そういえば由良も、夕立ちゃんは? いつも一緒にいるよね。ノロケ話とか、してくれてもいいんだよ?」
 由良は大きくむせた。夕張はにやにやと下世話な笑みを浮かべている。
「だ、誰がノロケるか! あの子は今遠征に行ってるのよ。……そ、そんなことより、いつまでもここにいていいわけ?」
 話を逸らすために、壁に掛けられた時計を指さして言ってみる。
「わっ、やばい。そろそろ行かなくちゃ」
 そう言って彼女は慌てて立ち上がる。相変わらず、忙しない。
「もう。そんな調子で、装備開発の仕事は大丈夫なの?」
「いつも通り、バッチリよ。装備換装、その他開発はお任せください!」
 おどけた口調でそう言った彼女は、立ち上がって慌ただしく廊下の向こうへ走っていった。
 やれやれとコーヒーを再び口に含んで、ふと何かが引っかかった。夕張が最後に言い残した言葉を、どこかで聞いたような気がしたのだ。
 誰かが言っていたんだっけ、と考え込んでいると、前から声がした。
「あっ。由良さん、奇遇ですね」
 噂をすれば何とやら。五月雨が立っていた。こんにちは、とこちらを向いて軽く腰を折る。紙の束を大量に抱えているから、どうやら仕事中に通りかかっただけらしい。
「ああ、五月雨ちゃん。それ、重そうね。運ぶの手伝うわ」
 由良が腰を浮かせると、五月雨はあわあわとする。
「いえ、でもそんな……」
「いいのいいの。どうせ暇だから。」
 そんなわけで、執務室まで書類を一緒に運ぶことになった。五月雨はしきりに恐縮していたが、由良にとっては暇が潰れるのでありがたいくらいだった。
 二人は廊下を歩きながら会話を続ける。
「さっきまで夕張の奴と話してたのよ。五月雨ちゃん、入れ違いになっちゃったわね」
「そうだったんですか。それは残念です」
 言って彼女は本当に残念そうに眉尻を下げる。感情がすぐ顔に表れる。素直な子だ。
 そう思ったが、よく考えれば先ほどの夕張も似たような反応をしていたのを思い出した。
 もしかしてこの二人って……。由良はちょっと鎌を掛けてみることにした。
「ところで五月雨ちゃん、秘書艦のお仕事は順調?」
 そう尋ねた由良に、五月雨は満面の笑みを浮かべて快活に言う。
「はい、バッチリです。何でもお任せください!」
 つい先ほど聞いたのとよく似た台詞だった。おそらく大本はこの子なのだろう。思わず由良はぷっと吹き出してしまう。それを見た五月雨はまた慌て出す。
「わわっ、な、何かおかしなこと、言っちゃいましたか?」
「ううん。もう本当にあなたたちって――似たもの同士だなぁって」
 手を伸ばして、五月雨の頭を撫でてやる。彼女はよくわかっていない顔で首を傾げていた。
「な、何の話ですか?」
「いいのいいの。気にしないで」
 書類を執務室に運び終えて、五月雨と別れた。また廊下を歩きつつ窓の外を見ると、いつの間にかもう日が傾いていた。もうすぐ夕方になって、空が赤く染まり出すだろう。
「ん?」
 波止場の所に何人か人がいるのが見えた。この建物に向かって歩いてくる。どうやら遠征から帰ってきた艦隊のようだ。
 その中に一際元気に飛び跳ねている、よく見知った姿がある。顔が綻ぶ。
「ふふ、帰ってきたっぽい」
 思いがけずそう口にして、はっとなった。それから自分に対して苦笑を漏らす。
 ――どうやら私も、人のことは言えないみたいね。まったく。
 帰ってくる彼女を出迎えるために、由良は玄関へと向かうのだった。



BACK / TOP / NEXT



inserted by FC2 system