オリジナル


TOP


せんせい





 目を覚ますと、計ったようなタイミングで廊下からチャイムの音が聞こえてきた。
 北方夏子(きたかた なつこ)は大きく欠伸をしながら、机に突っ伏した状態から体を起こす。どうやら次の授業の準備をしていたらそのまま眠ってしまったらしい。
 そこは科学室と隣接している科学準備室だった。ビーカーやら試験管やらがその辺りに乱雑に置かれていて、少々埃臭い。理科科目担当教員としての立場を利用して、夏子は職員室ではなくほとんどこの部屋で過ごしている。
「あー、よく寝た……」
 白衣のポケットから取り出した腕時計を確認すると、丁度昼休みに入った時間帯だった。午後の一番に授業が入っていたので、どうやら寝過ごさずには済んだらしい。
 ――そういえば、今日彼女は来るだろうか。
 夏子はじっと入り口の引き戸を見つめる。来るとしたら、そろそろのはずだ。
 すると、控えめに扉がノックされた。いつもの時間通り。几帳面な彼女の性格を窺わせる。
「どうぞ」
 含み笑いをしつつそう言うと「失礼します」の声とともに扉が開いた。
「せんせい、今、大丈夫ですか?」
 少し不安げに上目遣いで尋ねてくる少女。この中学校の一年生、上川理奈(かみわか りな)だった。
「うん、大丈夫。いいよ、入っても」
「は、はい……じゃあ」
 夏子が気さくに手で招くと、理奈は遠慮がちに部屋の中に入ってきて後ろ手に扉を閉めた。夏子は立ち上がり、彼女に近づく。
「それで、どうかしたの?」
「あ、はい。えっと……」
 しどろもどろになる理奈。こういう駆け引きが出来ないところはやっぱり子供だな、と内心微笑ましくなる。
 改めて、夏子は理奈を見つめる。艶のあるショートカットの髪と黒目がちの目、そして大きめな半袖セーラー服に包まれた、薄く小さな体。背丈は夏子の顎くらいまでしかない。
「せんせい……?」
 じっと見ていたからか、不思議そうに理奈が口を開く。
「ん、ああごめん。可愛いからつい見惚れちゃって」
「そ、そんな……」
 照れたように彼女は目を逸らす。そうやってすぐに反応するところも素直だ。……素直で、可愛い。
 夏子は彼女を通り越し、入り口の扉に鍵を掛ける。そして何食わぬ顔で振り返る。
「理奈ちゃん。先生に何のご用事かな?」
 手を伸ばして、彼女の耳に触れる。くすぐるように、全体をそっと指でなぞる。
「んっ……せんせ、くすぐった……」
「ほら、言ってくれないと、わかんない」
「せ、せんせいに、会いに来ました……」
「うん。よく言えました」
 夏子は屈み込み、彼女が目を閉じる暇を与えないまま唇を奪った。
 まずは上唇、そのあとに下唇をくわえ込み、軽く甘噛みする。マシュマロというよりは、グミのような弾力のある柔らかな感触。癖になりそうだ。
「口、開けてくれる?」
「は、はい……んんっ」
 理奈が言われた通りにしたのと同時に、舌を差し入れた。唇と同じく小さな口の中を、時間をかけて巡っていく。
「ぷはっ……あっ……」
 たっぷり堪能してから口を離すと、ふらふらと理奈がもたれかかってくる。どうやら力が抜けてしまったらしい。
「おっとと。大丈夫? やっぱりまだ慣れないんだ」
「だ、大丈夫です……」
 言いつつも彼女は口の端から唾液をこぼしたまま、とろんとした顔つきをしていた。それを見てムラっと来てしまった。
「……理奈ちゃん。こっちに座ってもらえる?」
「はい……きゃっ!」
 理奈を軽く抱き上げて、部屋の中心にある黒塗りの大きな机の上に座らせた。それでようやく目線の高低差が縮まる。彼女の足は地面に届かずぷらぷらと揺れていた。
「せ、せんせい……」
 戸惑う彼女をよそにセーラー服の藍色のリボンを外す。
「はい、万歳して」
 夏子の言葉に従って両腕を上げた理奈から、上の服を抜き取った。その下に着ていたキャミソールもついでに脱がしてしまうと、白桃のように透き通った素肌が露わになる。まだブラジャーもしていないのだ。
「やっぱり綺麗だね、理奈ちゃん……」
 顔を寄せるとそのきめ細かさがはっきりわかる。まだ育ち始めたばかりの未熟な果実。たまらなくなって夏子は首の付け根の辺りに口をつけた。
「ひゃあっ」
 理奈が声を上げる。肩口まで舌を滑らせたあと、夏子は鎖骨を下って、ピンク色に色づいている突起に舌先で触れた。
「あくっ……せんせ、そこ……っ!」
 まだ軽くつついた程度なのに、彼女の反応は大きい。こういうことを繰り返すたびに感度がよくなっていくようだ。夏子は久々に誰かの体を開発する楽しさを感じていた。
「ここ、気持ちいいの……?」
 まだ薄く色づいただけの乳輪をなぞる。
「はぁっ……わ、わかんない……」
「本当に?」
 片方に口をつけつつ、もう片方を手のひらにおさめる。わずかに曲線を描き始めただけの胸。それでもやっぱりふわふわしている。
「せんせっ……それ、やだぁ……」
 手も口も容赦なく動かしていると、理奈の吐息混じりの声が聞こえてきた。
「理奈ちゃん、嘘ついたらダメだよ」
「ひゃっ、くあぁっ……!」
 試しにすぼめた唇で乳首を吸ってやると、彼女の背がびくんと大きく震えた。感じている。その証拠に、どちらの突起も固くなってきていた。
「気持ちいいって、言ってみて?」
 言いながら夏子は胸から下の方へ顔を下ろし、横腹に軽く歯を立てる。そして真ん丸とした愛らしい形のへそに先を尖らせた舌を入れた。
「あんっ……き、気持ちいい、です、せんせい……」
 そう言った声は、子供のものとは思えぬほど甘さをはらんでいた。自分の背筋がぞくぞくとささくれ立つのがわかる。
「……スカート、脱がしてもいい?」
 尋ねると両手で顔を隠している理奈が、小さく頷いた。果物の中で一番美味なのは、果汁を多く含んだ場所だ。夏子はその場所がどうなっているか想像しながら、ゆっくり彼女のスカートに手をかけた。
 その瞬間、間の抜けたチャイムの音が水を差してきた。
「あっ、やば。昼休み終わっちゃった」
「えっ、嘘?」
 我に返った理奈が急いで制服を着直し始める。授業には出るつもりのようだ。
「ほら、慌てないで。服ズレてるし、タイも曲がってるよ」
 夏子は彼女の細かな乱れを整えてやり、ぽんと肩を叩いた。
「はい、おしまい。あ、教室行く前にトイレ寄った方がいいよ。……多分、濡れてるだろうから」
「えっ? あっ……はい……」
 理奈はすぐにその意味に気づいたらしく、顔を真っ赤にして何度も頷く。
「じゃあ、理奈ちゃん。また放課後に」
「は、はい! そ、それじゃあ」
 彼女は弾かれたように顔を上げてそのまま部屋を飛び出していった。それを見送って、そういえば自分にも授業が入っていたことを思い出す。
「はぁ。放課後かぁ」
 ため息が出た。最後まで出来なかったせいで、胸がもやもやとしている。
 ――これじゃあまるで私が、理奈ちゃんに夢中みたいじゃないか。
 夏子は準備済みの教材を持つと、やや気乗りしない足取りで部屋を出ていった。


「……私、せんせいのこと、好きみたいなんです」
 やってきてからほんの数分、理奈は突然そんなことを言い出した。
「……はい?」
 夏子は椅子の上で足を組んだまま首を傾げる。
 とある日の昼休み。珍しく午後の授業もなく準備室でくつろいでいたら、来客があった。それが理奈である。てっきり授業のことでも聞かれると思っていたので、夏子は一瞬彼女が何を言ったのかわからなかった。
「……それって、どういう意味で?」
「あっ、その……入学式で一度見たときから、綺麗な人だと思ってて……」
 しどろもどろに話し始める理奈を、じっと見つめる。一年生のどこかのクラスで授業を行った時に、見かけたことがある顔だった。
 少し緩めな夏子の授業でも静かに聞いているような、真面目な生徒。そんな印象しかなかった。
 だがよく見ると、なかなか可愛い女の子だった。男の子にもそれなりにモテそうだが、どうしてよりにもよって自分のことが好きなどと言い出したのだろう。
 もっとも、夏子も恋愛対象は女性である。だから彼女は何となくそれに当てられてしまったのかもしれない、と思う。
「……あのさ、理奈ちゃん、だったっけ」
 夏子が口を開くと、理奈はびくっと体を竦ませる。
「私のことが好き、なんだっけ?」
「そ、そうです……」
 理奈は今にも泣きそうな顔をしていた。きっと連日悩み続けて、今勇気を出してここに立っているのだろう。
 でも彼女はまだ中学にも入ったばかりの子供なのだ。きっと今抱いている感情も、思春期特有の勘違いに過ぎないのだろう。
 かといってそう諭すのも、少し気が引ける。
「じゃあ私とキスできる?」
 言い放つと、理奈が目を見開いてこちらを見た。
 あえて刺激の強いことを言えば、彼女も引き下がってくれるだろう。そういう目論見だった。
「……できます」
 だが彼女の返事は期待とは真逆のものだった。心なしか表情も意を決しているように見える。
「……ふうん。そうなんだ」
 椅子から腰を浮かせて、彼女の前に立つ。そっと頬に触れてやると、彼女はぎゅっと目を閉じ、耳まで真っ赤にしながら夏子を待っていた。
 ぞくり、と微かな電流のようなものが体に走った気がした。直前まで、頬にでも口づけてからかってやろうと思っていたのに。
 気づけば夏子の唇は、彼女の同じところに重なっていた。
「んっ……」
 彼女の戸惑いが、微かに伝わってくる。夏子が唇を動かすと、向こうもそれに応えるつもりか同じように動いた。
 まだ全然慣れていない仕草。おそらくキスも初めてなのだろう。だがそのぎこちなさは、夏子に火をつけるには十分だった。
「んむっ!?」
 予告もなしに舌を入れた。そして硬直している彼女の短い舌を、そっと絡め取ってやる。
「ふあっ……」
 キスを終えると理奈がバランスを崩し掛けたので抱きとめてやった。ファーストキスにしては、刺激が強すぎたかもしれない。
「せんせい……」
 耳元でそう囁かれた。子供のものとは思えない、淫靡な響きを纏った声。それを聞いて、もう何もかもどうでもよくなってしまった。
 ――まあ、思春期の勘違いに付き合うのも、たまにはいいのかもしれない。どうせ今は、彼女もいないのだし。
 その日から。夏子は理奈と、秘密の関係を持つようになったのだった。


 放課後。夏子は気だるさを引きずりながら廊下を歩いていた。やはりやんちゃな年頃を相手に教鞭をとるのは中々骨が折れることだ。
 窓からは午後三時過ぎの薄い日差しが差し込んでいる。それを見て目を細めながら、ようやく放課後か、としみじみ思った。
「おっ、夏子先生すっげぇダルそうじゃん。年だねぇ」
 立ち話をしていた男子生徒が夏子を見て声を掛けてきた。
「年って。私ゃまだぴちぴちの二十六歳だっつーの。あんたらが真面目に授業受けないから、疲れちゃってさぁ」
「まあしょうがないよ。俺ら、まだ若くて元気有り余ってるし」
「はいはい、言ってろ言ってろ。あんたらも今に年取るんだからさ」
 軽い言葉を交わし合って別れた。この中学校に勤めてから一年ちょっと。夏子の少しいい加減な態度が生徒たちには親しみやすいのか、気さくに接してくれることも多い。そんなこともあって、夏子はこの学校の子供が嫌いではなかった。
 だけど特別扱いしているのは、今のところただ一人。――彼女だけだった。
 自然と早歩きになる。一足先に準備室で待っていなくては。
 ふと窓の外に目をやって、立ち止まった。中庭にある、体育館と校舎を繋ぐ渡り廊下。そこに、理奈がいた。
 正面にいる男の子と、何やら話しているようだった。ここは二階だからよく見える。お互い気まずそうにしている二人の様子から、ただの世間話をしているわけではなさそうだ。
 ……告白? そう思い立って、夏子は腕に抱えていた教科書類を落としてしまった。
 男の子から? それとも……理奈から?
 思いの外動揺している自分に気づいて、夏子は慌てて落としたものを拾うと足早に歩き出した。
 いつかこんな日が来るのがわかっていたのに、自分は何を取り乱しているのだろう。大体自分だって、遊びのつもりだったではないか。
 そう思って自分を宥めようとしたが、乱れた動悸が治まることはなかった。


「せ、せんせい……? あっ」
 狼狽している理奈に、夏子は何も言わず折り重なるようにして唇を奪った。
 あのあと。何事もなかったかのように準備室にやってきた理奈を無言のまま机に座らせ、そのまま組み倒した。彼女の体に覆い被さる体勢だ。
 荒々しく唇を啄めば、舌の動きもいつもより激しくなった。
「せんせい、どうしたんで……」
「体、ちょっと起こして。脱がすから」
 有無を言わさず、彼女のセーラー服をはぎ取った。先ほど見たキャミソールをめくり上げ、さらけ出された柔肌にちゅっと口で触れる。
「んあっ、ちょっ、待って……」
 くびれも少ない小さなお腹を、線を引くように何度か下から上へと舐め上げていく。途中で強く吸い上げて、わざと赤い痕を残してやった。
「んくっ、せんせい、強いよ……ちょっと待って……」
「ダメ。待たない」
 きっぱりと言って、キャミソールを限界まで持ち上げる。現れた平らな肌の上に咲いた二つの桃色の突起を、指で同時に爪弾いた。
「あんっ! やぁっ……!」
 更に片方を口に含んで舌で転がしてやれば、理奈は大きく喘ぎ始めた。今までより強い刺激に彼女もびっくりしているようだった。でも、しっかり感じているようだ。
「もっと大きな声、出してもいいよ……」
 固さを帯びた乳首を吸い上げつつ、夏子は空いている手で彼女のスカートのジッパーを下ろし、するりと脱がした。床にスカートが落ち、猫の模様があしらわれた子供っぽいショーツが露わになる。先の部分がしっかりと湿り気を帯びていた。
「次はこっち、ね?」
 夏子は机から下り、はみ出ている彼女の足の間に体を入り込ませた。ショーツの端に指を掛け、一気にずり下ろす。
「あっ、やだ、そこは……!」
「恥ずかしい? わかってるよ」
 しゃがみこんで、容赦なく彼女の股間をのぞき込んだ。夏子の顔が足の間にあるせいで閉じることもできず、理奈は腕で顔を隠して耐えるようにしていた。
「はぁっ、綺麗……」
 初めて見たわけでもないのに、そう呟いてしまう。
 微かに開いている亀裂、左右対称で薄い肉の門は、椿のように赤く色づいている。指で広げてやると、小さく空いた穴からとろりと蜜がこぼれてきた。周りもびっしょりと濡れている。性毛も生えていない子供でもこんなになるのか、と感心してもっと夏子は顔を寄せた。
「ん?」
 微かにウェットティッシュの香りがした。思わず口元が緩んでしまう。
「理奈ちゃん、来る前にウェットティッシュ使ったでしょ」
「えっ」
「前におしっこの臭いがちょっとするって言ったの、気にしてたんだ」
「ううっ……」
 恥ずかしそうな呻きを聞くと、どうやら正解だったらしい。やっぱり彼女も期待していたようだ。
 それならと、夏子は広げたままのそこを舌で軽く舐めた。
「ひゃうっ、くぅっ……!」
 今までで一番強い反応。今度は口を密着させて音を立てて吸う。そのまま喉を鳴らして飲めそうだった。舌先を使い、襞に溜まった蜜も掻き出して味わう。
「やぁっ、せんせ……うぁっ」
「理奈ちゃん、気持ちいい? すっごい濡れてるよ……」
 あとからあとから蜜が溢れてくる。これは彼女が、自分を受け入れている証拠。
 じゃあ、さっきのあれは……? 先ほど男の子と話していた理奈を思い出す。
 いや、そんなことはどうでもいい。彼女は今、私のことしか考えられないはずだ。夏子は無理矢理自分の意識を引き戻した。
「……理奈ちゃん、指入れてもいい?」
 尋ねる。彼女は自分のものだと、確認したかった。少し迷っていたようだったが、彼女は静かに頷いてくれる。
 夏子はそっと人差し指を彼女のそこにあてがった。つぷり、と先の方が彼女の中にゆっくり沈み込んでいく。
「うっ、くぅっ……」
 少し苦しそうに理奈が声を漏らす。まだ痛みがあるのだろう。無理もなかった。指一本でもいっぱいいっぱいなくらい狭い。だが火傷してしまいそうなくらい、熱かった。
「理奈ちゃん……」
 夏子は再び理奈の体と重なり、優しくキスをした。
「んんっ……」
 入れた舌に、彼女もぎこちなくだが自分の舌で抱擁を返してくれる。きゅうっ、と中に入れた指が強く締め付けられて、鼓動が跳ねた。
「くっ……せんせい……っ」
 彼女が呼んでくれる。その艶めいた声に、頭の奥が熱くなってくらくらとしてくる。
 もっと呼んでほしいと思った。何もわからなくなってしまうほど淫らに、自分だけのことを。
「せんせい、せんせい……!」
 彼女の吐息を感じながら、夏子は何もかもが満たされていくような感覚に酔っていた。


 まだ生温い空気が色濃く残った準備室の中。夏子と理奈は机の上に肩を並べて座っていた。もう窓の外は暗くなり始めている。今何時か気になったが、腕時計を見るのも億劫だった。
「痛いところない? 平気?」
「はい、大丈夫です……」
 どこか上滑りした会話だった。実際夏子が聞きたいことは、まったく別のことだ。
 このまま悶々としているのも性に合わない。まあ、その時はその時だ。思い切って聞いてみることにする。
「あのさ、理奈ちゃん……」
「はい?」
「さっき、男の子と話してたみたいだけど……」
「ああ、はい」
 理奈が顔を上げる。さりげなさを装っていたが、その実心臓はばくばくと騒いでいた。
 もし彼女が男の子と付き合うと言ったら、もうこの関係はなかったことにしよう。それがきっと、彼女のためになるだろう。
 彼女が口を開いた。
「告白されたけど、断っちゃいました。……私、今好きな人がいるからって」
「……えっ?」
 思わず彼女を見ると、顔を赤くして照れ笑いを浮かべていた。
「私、せんせいのこと、好きですから」
 全身から力が抜けて、次の瞬間夏子は理奈のことを抱きしめていた。
「わっ、せんせい……?」
「ごめん。私も理奈ちゃんのこと、好き。やっぱり」
 もう認めてしまえ、と思った。
 私はもうとっくに、彼女に夢中なのだ。
「……あのさ。今週の日曜日、よかったら一緒に出掛けない? 車出すからさ」
 腕を解いて、気づけばそんな誘いを口にしていた。学校の外では、彼女はどんな顔をしているのか。それを知りたいと思った。
「……それって、デート、ですか?」
「あー……まあ、そうだね」
 不意に、今度は彼女の方から抱きついてきた。危うくバランスを崩しかける。
「ちょっ、理奈ちゃん?」
「……嬉しいです。日曜日、しっかり空けておきます」
 理奈は夏子の体に顔を押し付けて、涙ぐんでいるのを隠しているらしかった。そんな大げさに喜ばれると、もう何でもしたくなってしまう。
 そう思ってしまう自分に苦笑しつつ、夏子は彼女の背中をぽんぽんと叩いて宥めてやるのだった。



TOP



inserted by FC2 system