艦隊これくしょん


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ゆうさみ+他の艦娘詰め

おまけ
ガールズトーク




「五月雨ちゃんが可愛すぎて辛い……」
 夕張がそう呟くなり、同じテーブルについていた由良と島風が白い目で見つめてきた。二人のため息が揃う。
「ちょっ。何さ二人とも! 私まだ一言しか喋ってないんだけど!」
「もうその一言だけで何が言いたいかわかるから。いいわよ、喋んなくて」
 呆れた顔をした由良が、ストローで手元のコップの底に溜まった氷を突いている。既に飲み物は空だった。
「いやいや、全然わかってないでしょ。じゃあ私がこれから何言うか当ててみてよ」
「どうせノロケ話でしょ? 聞き飽きたっつうの」
 ずばっと断ち切るように島風が言う。彼女は頬杖をついてあらぬ方向を見ていた。話を聞く気ゼロの姿勢である。だが図星を突かれたので、夕張は何も言えず唸っていた。
「ぐぬぬ……」
 三人がいるのは鎮守府内の食堂だった。昼食や夕食時には混雑するこの場所も、半端な今の時間ではガラガラである。夕張たち以外誰もいない。今日は珍しく三人とも時間が空いていたので、少し前からこうやって駄弁っているのだった。
 大体ね、と由良がストローの先を夕張に向ける。
「口を開けば一にノロケ、二にノロケ、三に装備開発の話だけど、あんた他に何か話題ないわけ?」
「うーん……ないです」
「ったく。とんだ色ボケね。五月雨ちゃんの苦労が窺えるわ」
 ため息をつく由良。このままだとまた長いお説教が始まりそうだった。夕張は進路変更を図る。
「そ、そういえばさ。島風もいたんだったよね、そういう相手」
「はぁっ?」
 急に話を振られて、弾かれたように島風がこちらを向く。由良の目が突然輝き始めた。
「え、嘘。そうなの? ちょっとその話、詳しく聞かせてよ」
「ちょっ……夕張。あんた、私を身代わりにしたね」
「ご、ごめん……」
 島風に一際険しく睨まれて、夕張は素直に謝る。ちょっとした話題逸らしのつもりだったが、予想外に相手の食いつきがよかった。由良は意外とこういった話が好きなのだ。
「誰、誰? 正式にお付き合いしている相手なのよね。どっちから告ったの?」
「……そんなことしてないよ。付き合ってる、って表現も正しいかどうかわかんないし」
「そうなの? でも色々済ませたのよね? 手は繋いだ? キスは?」
「い、言うわけないじゃん。プライバシーの侵害でしょ」
「またまた勿体ぶっちゃって。どんな人なの? 同じ艦娘よね? この鎮守府にいる人? イニシャルだけでもいいからさ」
「あー、もうしつこい。言わないってば」
 由良の好奇心たっぷりの質問責めに、さすがの島風もたじろいでいる。外側から見ている夕張にとっては、なかなか奇妙な図柄だった。
 ふと島風が唐突に由良に向き直った。
「……そういう由良は、夕立とはどうなの? 付き合ってるんでしょ?」
 由良の動きがぴたりと止まった。と思うとじわじわと顔が赤くなっていく。そして椅子を倒す勢いで立ち上がって、腕を振り乱した。
「い、いやいやいや! 私たちの話なんて、どうだっていいじゃない!」
 どうやらカウンターパンチが上手く決まったらしい。頬杖をついた島風の表情は変わっていなかったが、心なしか、してやったりの雰囲気を滲ませていた。
「いいじゃん。由良、夕張と違ってそういうことあんまり話さないし。この際はっきり聞かせてよ」
「えっ、だって……ねえ?」
「それとも、話せないことばっかりしてんの? 不健全だなぁ」
「ち、違う! たまに街に出てデートしたりとか、暇な時はくっついて一緒にテレビ観たりとか、そういう健全な関係よ!」
「ふーん。……最後にキスしたのいつ」
「えっと、今朝起きてすぐに……って、何言わせんのよ島風!」
 ぶんぶんと長い髪ごと首を振るう由良。反応がいちいちオーバーだから、傍観者の夕張も何か可笑しな気分になってくる。
「皆さん、お代わりはいかがですか?」
 キッチンの方から鳳翔が麦茶の入ったピッチャーを持って現れた。空になった夕張たちのコップに注いでくれる。夕張たちはどうも、と頭を下げた。
「あ、そうだ。鳳翔さんはそういう話ないの? 付き合ってる人がいるとか」
 いきなり由良が鳳翔に言う。話題を振られた彼女は目を白黒させた。
「わ、私、ですか……?」
「ええ。鎮守府のお艦って呼ばれてるけど、やっぱり鳳翔さんもそういうロマンス、ありそうじゃない」
 再び目をキラキラさせて由良が更に聞いた。その眼力に負けたわけではないだろうが、やがて鳳翔はおずおずと口を開く。
「そうですね……私にもお慕いしている方は、います」
「えっ、そうなんですか?」
 夕張は思わず声を出していた。鳳翔とそういったことは無縁だと無意識のうちに感じていたので、結構衝撃である。鳳翔は小さく頷く。
「どんな人なの? この鎮守府にいる艦娘?」
 食らいつく由良。鳳翔はもじもじしながら答える。
「えっと、そうですね。……ここにいる艦娘の方、です」
「えっ、本当? ちょっとびっくりかも。名前とか言える? イニシャルでもいいけど」
「あ、あの……」
「はいはい、そこまで。鳳翔さん、困ってるじゃんか」
 見かねた島風がぽんぽんと手を叩いて由良を制した。
「あ、ごめんなさい。仕事中だったわよね」
「いえ、大丈夫です。それじゃあ私は、行きますね」
 再び鳳翔はキッチンの方へ戻っていった。きっとこれから夕食の準備なのだろう。本当によく働く人だ。……でもそんな彼女も、まさかそういう相手がいるとは。
「別に不思議でも何でもないんじゃない?」
 夕張の心境を察したようで、島風がそう言った。
「艦娘だってそりゃあ恋の一つや二つ、するもんでしょ。相手が異性であれ、同性であれ、ね」
 確かに彼女の言うとおりである。ここの鎮守府でも、艦娘同士で付き合っている関係も多いのだ。最近では同性婚も認められたと、同じ性別同じ提督の人と付き合っている提督もはしゃいでいた。
 恋愛と言うものは様々な形はあれど、日常にひっそりとありふれているものなのだ。
「でもまあ、やっぱり恋の話はいいわねぇ。こっちまで何かきゅんきゅんしちゃうって言うか……」
 頬を両手で覆って、由良が言う。ならどうして私の話は快く聞いてくれないのかと、夕張はちょっと意地悪な気持ちになった。煽るように言う。
「じゃあほら、由良と夕立ちゃんの話聞いて、私もきゅんきゅんしたいなぁ」
「ええっ。だから、別に話すことなんてないんだってば」
「じゃあいっつも、二人でどういう風に過ごしてるのか話せば。それならいいんじゃない」
 島風も加勢する。彼女も案外こういった話は嫌いじゃないのかもしれない。
「もうっ! 恥ずかしすぎて、そんなの話せるわけないじゃなーいっ!」
 由良の絶叫が、食堂に大きく轟いた。



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