悪魔のリドル


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あなたのもの

理事鳰




 高鳴った自分の鼓動が、こもったように聞こえていた。
 先ほどから荒く吐かれている息は自分のものだ、と走り鳰は気づく。思考回路がこの上なく混雑し、どうしていいかわからなかった。
「どうしたの、鳰さん」
 目の前には不敵に笑う百合目一の顔がある。鳰は彼女が座るオフィスチェアに、向き合うように立て膝をつかされていた。真夜中に呼び出されて理事長室に顔を出すなり、いきなりそうするように言われたのだ。
 体勢のせいで見下ろす形にはなっていたが、鳰は決して優位に立っているわけではないと自覚している。主導権はいつだって、彼女にあるのだ。
「さあ、自分で脱いでみなさい」
 楽しそうな声色で百合は言う。鳰は小さく頷いて、まずはブレザーを床に落とし、ワイシャツのボタンを一つずつ外した。普段は制服の下に隠れている豊かな乳房が現れる。
「ちゃんと上の下着は付けてこなかったの。良い子ね」
 百合の言葉に顔がかっと熱くなった。事前に言われていたので、薄いワイシャツの中はそのまま素肌だった。最後のボタンを外し終えて、百合と向き合う。
「……これで、いいっスか」
「ええ。上出来ね」
 すぐさま百合の手がワイシャツに掛かってきて、鳰の腕の関節ぐらいまで引き落とした。その体に刻まれた鋭い羽のような刺青が露わになる。
「いつ見ても、綺麗ね。惚れ惚れするわ」
「理事長、ワイシャツ脱いでいいっスか。動きにくくて……」
「ダメよ。動きにくくするためにそうしてるんだから」
 そう言って彼女は鳰を引き寄せ唇を奪った。まずは唇だけを味わうように軽く啄み、舌がずるりと口に入ってきた。
 百合の舌は緩慢に動き回る。激しく求めるといった感じではなく、ゆっくりと撫でまわすようだ。鳰の肌が粟立った。
「んっ……」
 鳰も百合に舌を差し込んだ。深く顔を下ろし、一滴も逃すまいと百合の唾液を強く啜る。ぢゅる、ぢゅるると淫靡な音が鳴り響いて脳を揺さぶった。
「がっつき過ぎよ、鳰さん」
 もう少しそうしていたかったが、肩を押されて強引に引きはがされてしまった。飲み切れなかった分が口の端からこぼれ落ちる。名残惜しくて、鳰は顎に滴ったそれを指先で取って舐め上げた。
「んぐ、んむっ……」
「あらあら。少し行儀が悪いんじゃないかしら?」
 静かに笑っている百合だったが、瞳がぎらぎらと獣じみた光を放っていた。彼女も興奮しているのだと思うと、鳰はまた鼓動が騒ぎ出すのを感じる。
「下品な子猫ちゃんには、躾が必要ね……?」
 百合は鳰の体を引き寄せ、首筋に歯を立てた。甘い痛みが走り、思わず歓喜の声を漏らしてしまう。そんな反応に微笑して、百合は突き出した舌を滑らせていった。
 柔らかな感触が肌をなぞるほどに、鳰の中にある淡い疼きはじわじわと膨れ上がっていく。まるで全身の神経が百合の意のままに操られているかのように。
 ほとんど不意打ちで、胸を少し強めに掴まれた。
「んっ! ちょっ、理事長……」
「こんな風にされるのは、嫌いだったかしら」
 更に荒々しく揉みしだかれ、鳰はたまらず身を捩った。
「はっ……い、痛いっス。もっと優しく……」
「そう? でも、しっかり悦んでるじゃない」
 百合は指先で胸の先をくすぐってきた。彼女の言う通り、桃色に色づいたそこは固くそそり立っている。鳰は羞恥で悶えた。
「そ、そんなこと、ないっス……」
「嘘はよくないわね、鳰さん?」
 きゅっと先を指で摘まれて、また声を上げてしまった。
「はぁっ」
 今度は僅かに悦びの音が混じっているのが自分でもわかる。だがそれを認めたくなくて、唇を固く結んだ。
「鳰さんのそういう頑ななところ、好きよ」
 口元を歪めた百合は、いじっていた胸の突起をぱくりとくわえてしまった。生温さと口の中で転がされる感触に、鳰は大きく目を見開いた。
「くっ、あっ……」
 必死に声を抑えようとしても、無駄だった。こそばゆさとは違う甘美な刺激が感覚を支配していく。胸の愛撫だけでもう高まりに連れて行かれそうだ。
「こっちは……どうなってるのかしらね」
 ふと、タイツ越しに太股を撫でられる。その手は次第に足の付け根まで伸びていき、そっと鳰の中心に触れた。
「あら」
 百合が嗜虐的な笑みを浮かべる。耐えられずに鳰は目を逸らした。ソコがどんな状況になっているかなど、自分でもよくわかっていた。
「タイツまでぐっしょりなのね。粗相でもしたのかしら」
「ち、違っ……!」
「なんてね、冗談よ」
 そのまま彼女は鳰のタイツに手をかけて、ショーツごとずり下ろした。
「邪魔だから、それも外してもらえる?」
 スカートを指して言われる。一瞬躊躇したが、結局鳰は言われた通りにする。片足を上げて、スカートを椅子の下に落とした。
 さらけ出された場所に焼けるほどの視線を浴びせられる。いたたまれない。
「すごいわ、こんなに濡れるなんて。あっ、また垂れてきたわね」
 足の付け根から鳰の蜜を掬いとり、彼女は目の前で口に含んでみせた。
「ちょっと、しょっぱいかしら。結構粘ついているわね」
「や、やめてください、っス……」
 口ではそう言いながらも、ぞくぞくと背中を高まった感情が駆けていくのがわかった。
「んんっ!?」
 唐突に鳰の秘部に指が触れた。今までで一番強い衝撃に、体が大きく揺れる。
「いい反応ね。気持ちいいの?」
 肉門が左右に割られ、ひくついた襞を指先で何度も擦り上げられる。ぐじゅっ、じゃぶっ、と淫らな水音が響きわたった。膝ががくがくと震えだして、もう立っていられなくなりそうだ。
 絶え間ない快楽の波に溺れそうになりながらも、鳰は物足りなさを感じていた。表面だけじゃなくて、中へ。体の奥深くまで、彼女に犯してほしかった。
「理事、長……」
「何かしら」
 呼びかけに応じるも、百合は動きを止めない。早くしないと達してしまいそうだ。彼女もそれがわかっているみたいだった。
「ほら、口で伝えてくれないとわからないわ。どうしたの、鳰さん?」
「あっ、くっ……ゆ、指……」
「指が、何?」
「理事長の、指……くだ、さい……」
 なりふり構っている余裕なんてなかった。だらしなく口から唾液をこぼしながら懇願する。
「よく言えたわね。……ご褒美よ」
 彼女が満足そうに微笑むのと同時に、二本の指が鳰を貫いた。
「うあっ、ぐぅっ……!」
 待ちに待った瞬間を迎え、鳰は軽く達した。電気にも似た疼きが体中を巡り、力が入らなくなる。前に倒れ込んでしまい、百合に正面から覆いかぶさる形になった。
「もうおしまいなの? お楽しみはこれからでしょう」
 収縮して強ばった膣内で指が蠢く。あまりにも激しすぎる刺激。
「んあっ! ああっ!」
 もう喘ぐことしかできなかった。鳰は欲求の赴くままに百合の唇にかぶりつき、滅茶苦茶に舌を動かした。彼女は何の抵抗もなくそんな鳰を受け入れてくれる。
「理事長、捨てないで……」
 キスの合間に、そんなことを呟いていた。
「好き……好き……っ」
 それからまた何度も唇を交わらせる。求めるがままの野生的な口づけ。
 このままふやけて溶けてしまうと思った頃だった。
「私も好きよ、鳰」
 囁かれたそんな言葉で。既に限界まで上り詰めていた鳰は背を弓なりに大きくしならせて達した。下から頭の先まで一気に貫かれたような衝動。口を開けて震え続けている自分を、どこか遠くに感じていた。
 再び百合に体を預けても、まだ余韻は消えてくれなかった。ぼんやりとしている鳰を、彼女はずっと抱き留めてくれていた。
「理事長。ウチをずっと……そばに置いてくれますか」
 夢心地のまま尋ねる。どんな返答でも、今なら受け入れられるような気がした。どうせ目が覚めたら忘れてしまうだろうから。
 一瞬の間の後、頭に何かが触れた。百合の手だった。彼女は鳰を、撫でてくれているのだ。
「当然よ。あなたは一生、私のものでしょう?」
 どこか優しさを含んだ声は、まるで子守歌のように心地いい。思わず口元が緩んだ。
「……はい。ウチは一生、理事長のものっス」
 満ち溢れる幸福感に酔いしれて。鳰はそっとその瞼を閉じた。



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