もらいもの


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same difference

『Valuable☆Relation』の湧水様より




夏休みも半分が過ぎ、世間はお盆。
鳴く蝉の声も真っ盛りで、クーラーを点ける為に締め切ってなかったら煩くてかなわない。

私は宿題を消化するために、夕食前のこの時間を勉強机に向かって過ごしている。
昨日は友達としこたま遊んだからと思えばこそ、今日はやるぞという決意に満ちてくるというもの。
シャープペンの進むペースも、予想以上に速い。

しかしこの直後、真夏のゲリラ豪雨のような事態に見舞われようとは思ってもいなかった。







 same difference



「お姉ちゃーん! あたしのスマホ、勝手に触ったでしょ!」
どたどたと階段を駆け上がってくる音が聞こえたと思ったら、いきなりずばんと部屋のドアが開くや否や浴びせられた怒声。
遊びから帰って来て、リビングの些細な異変に気付いたのだろう。
聞き慣れた妹の声に、机に向かっていた私はそちらへ向くことを余儀なくされる。

「触ったよ。 てか、使った。」
「な、何勝手に使ってんの! お姉ちゃんだからってそんな事いけないんだからね!」
特に誤魔化す必要も無いと思った私の正直な告白に、汐里の頭頂がドカンと噴火したように見えた。
あぁ、もう、面倒くさい。

「しょうがないでしょ。 私のケータイがどこ行ったか見当たらなくなっちゃって、掛けたら着信音がするから判るかなーと思ったの。」
「ウチに居たんだったら、ウチの電話から掛ければよかったじゃん!」
先月の12歳の誕生日にようやく念願叶って買ってもらえたスマホを握り締め、汐里は今にも私に殴り掛かりそうな剣幕で詰め寄って来た。
「リビングで探してる時に、テーブルの上に置きっ放しになってて手が届いたから、たまたま使っちゃった☆」
そもそも、遊びに行くのに電話を持って行かないという事が、私には理解できない。
「ちょっ、☆ じゃないでしょ! たまたまってなによー! もー!」
しゃあしゃあと事情を説明する私が気に入らないのか、語尾に☆を付けたのが気に入らないのか、汐里の髪を伝って怒りの溶岩がどろどろと流れ出す。

「いいじゃない。 鳴らしただけで通話料掛かってないし、充電切れになったわけでもないんだし。」
「良くないー! ひとのスマホ見るなんてぷりゃいばしーのシンガイなんだよっ! お姉ちゃんだってケータイ見られたらヤでしょ!?」
使い慣れない単語を噛みながら4つも年上の私を説教するなんて、どういう育て方をされたのか、まったくこの子の親の顔が見てみたい。
・・・あ、毎日見てるか。
「いや、汐里にだったら別に見られてもいいけど。」
見られたところで何も後ろめたい事なんてないので、私は汐里のスマホのお陰で机上の充電スタンドに戻ったケータイを汐里に差し出す。

「え、いいの?」
意外だったのか、汐里の表情が一転した。
「どーぞ。」
二つ折りになっているケータイをぱかっと開いた瞬間、今変わったばかりの汐里の表情は更なる変化を遂げた。

「ほあぁぁ! ナニコレかわいー!」
目がハートになって一番高い声を出す汐里が叫んだのは、私の必殺待ち受け画面の効果に違いない。
仔猫4匹が並んでいて、振り子を顔で追いかける様子がひたすら繰り返されるだけの画像だけど、初めて見た時の衝撃は忘れられない。
そして今もケータイを開く度に私の心を和ませてくれる素敵な動画なのだ。

「お姉ちゃん、あたしもこれ欲しい!」
「んー、まぁ、頑張って探しな。」
ひらひらと手を振って突き放そうとするも、仔猫の魔力にすっかり魅了された汐里は諦めようとしない。
「なんでー! 教えてくれてもいーじゃん!」
「私よりも良い機能の電話使ってるんだからすぐ探せるでしょ。 あ、てか、もっと可愛いのが見つかるかもしれないよ。」
私の提案に、汐里は一瞬うぎぎと口元を歪めたのち、ふいと顔を逸らした。

「う・・・だって、お姉ちゃんと同じのがいいんだもん。」

我が儘言うんじゃないの。
普段だったら、そんなツッコミで終わる一言なのに。

どうして口籠ったの?

どうして顔を背けたの?

どうしてさっきまでの勢いがないの?

さっきまでの口調で言っても、全然おかしくないセリフなのに。

「そ・・・そう、なんだ・・・」
刹那に湧き起った疑問のせいで、私まで空気に飲まれて曖昧な返事をしてしまった。
でも、この状況で言葉が繋げなくなるのは変な気がして。

「あ、そうだ。 昨日買って来たプリンがまだ冷蔵庫に1個残ってるんだけど、半分食べない?」
今日の夕食後に食べようと思って、昨日余分に買ってきたのを罪滅ぼしって訳じゃないけど分け与える事にした。
それに、私と同じのが良いって言ったから、半分こってしておけば喜ぶんじゃないかな、なんて考えもあって。

「え。 あたし、朝食べたよ。 1個残ってたから。」
「は!?」
ガラス細工のように美しい『姉らしい気遣い』が、妹の無慈悲な言葉の投石で音を立てて砕け散った。

「な、何勝手に食べてんのよ! ちゃんと箱に大きく海里って書いてあったでしょ! み・さ・と って! ひらがなで!」
私の頭頂が噴火したのを知ってか知らずか、汐里は小首を傾げながらその時の状況を思い出そうとする。
「箱? あー、買って来た時の大きな箱? 冷蔵庫の中で幅とって邪魔だからって、お母さんが捨ててたよ。」

おーまいがっ!
なんということでしょう。
中のプリンにも名前書いておくべきだったわ・・・
思わずがっくりと項垂れたものの、私はすぐに顔を上げて汐里を睨みつける。

「だからってどうしてあんたが食べてんのよ!」
「いーじゃん、スマホとおあいこって事で。 ね。」
椅子から立ち上がった私に気圧されたのか、汐里が胸の前で両掌を私に向けながら一歩後ずさる。

「良い訳ないでしょ! 汐里!」
「きゃー! お母ーさーん!」

どたどたと二人で階段を駆け下りると、そこに待ち受けていたのは母の「うるさいわよ!」だった。

結局二人とも怒られるなんて、先程まであんなに晴れていたのに、まるでにわか雨で仕舞うのが間に合わなかった洗濯物になった気分だ。



☆  ☆  ☆  ☆




「お姉ちゃんのせいで怒られたー・・・」
2人で階段を上りながら、2段下をついてくる汐里が自分勝手な不満に頬を膨らませた。
「ちょっ、何で私のせいなのよ。」
2階に辿り着いた私はくるりと振り返って悪態に反論する。
「だって、お姉ちゃんが大きい声出して追っかけてくるから。」
「それ自体が誰のせいよ。」
もう、なんだかこれ以上怒り続けるのも馬鹿らしくなってきた。

「・・・お姉ちゃん、明日プリン買って来るね。」
まだ階段を上り切っていない汐里が、急に大人しくなって私を見つめる。
こう言われると、なんだか私だけが一方的に悪かったんじゃないかなんて思えてくるけど、姉としてのプライドが素直になる事を拒否する。
「お小遣い貰えるの、来週じゃない。」
「う。 そ、そうだけど、そのくらいなら・・・」

ぽん。
頭に私の右手を乗せられて、一瞬、汐里はピクンと肩を震わせて身を竦めた。
「いいから。 もうこの話はおしまい。 ね。」
「・・・ うん。」

何とかうやむやにして謝る事を回避できた私は、上目遣いで頷いた汐里の頭をそっと撫でた。
許してもらえたと思ったのか、汐里の表情に笑顔が蘇る。

「えへへ、お姉ちゃん、好き。」
「ふふっ、はいはい。」






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congratulation!  over 60000HIT!  to  天空日和 様


毎度お世話になっております。 湧水です。

5万HITの時にお祝いしようと思ってたのに、こちらの都合でできませんでしたので、今回6万HITでのお祝いを差し上げました。
お忙しい中、お題を考えさせてしまってスミマセンでした。

頂きましたお題 「(実)姉妹百合」「喧嘩っぷる」「小学生×高校生」
という3KEY WORDSは満たしていると思いますけど、集約すると「ただの姉妹喧嘩」になってしまいましたね。(^ ^;;

短い文章ですが、楽しんで頂けたら幸いでございます。

そして天空日和様をご覧の皆様!
・・・たまには うちにも遊びに来て頂けたら嬉しいなー、喜んじゃうなー(爆)(;    ;)

なんて、失礼しました。
それでは、貴サイトのますますの繁栄を願いまして、ご挨拶と致します。

Valuable☆Relation 湧水まりえ  拝



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