もらいもの


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Golden smile

『Valuable☆Relation』の湧水様より




「困りましたわね。ウェル・・・」
私の隣でフルスさまは、本当にそう思っているのか判らない穏やかな表情で仰った。
だが今は、微笑んでいらっしゃると見紛うような端正な横顔に見惚れてなどいる場合ではないのだ。

 

Golden smile

 

事に至るまでは、偶然としか言いようの無いことだった。
我が父ガルトラン公爵の領地と、フルーセン姫の父君プラナバリー公爵の領地は隣接しており、大変仲が良いことで知られている。
プラナバリー閣下は王族直系という大家でありながら非常に器量の大きなお方で、傍系で格下の当家にも対等とも言えるお付き合いをして下さっている。
それ故か、私は2つ年上のフルスさまとは幼少時から交流があり、互いに伝書鳩を交わす間柄となった。

初めてお目に掛かったのは10年ほど前、まだ私が5つの時の事。
その頃のお姿を、今でも私はハッキリと覚えている。
青を基調としたロングドレスに身を包み、編み上げた金の工芸品のような髪は滑らかで花の香りがした。
「初めまして。ガルトラン閣下。ウェランシア姫。フルーセン・アーヴェンガリアと申します。」
優雅な所作で軽くお辞儀をなされて、銀の鈴のような涼やかなお声でのご挨拶。
そして微風のような微笑を浮かべられたあなたを、私は幼心に女神の様だと思ったものです。
「あ・・・お、お招き頂きまして光栄れす・・・えと、プラナバリーかっっか、フルーセン・・・姫。・・・あ、えと・・・」
緊張の余り父に叩き込まれたはずの言葉が、噛んだ上にスムーズに出て来ず、父に恥をかかせてしまった。
5歳でも公式の場に出れば貴族の娘。悔しい思いに視界が滲む。
そんな私をプラナバリー閣下は努力家だと褒められ、子供は子供らしくあれば良いと頭を撫でて下さいました。
「さあ、行きましょ。お庭に見せたいものがあるの。」
泣きそうだった私の手を取って、あなたは笑いながらその場から私を連れ出して下さいました。
そのお顔と同じく上質の絹のように白く柔らかい手を、私はいつまでも握り締めておりましたね。

私もあなたのような立派な淑女になりたい。
3度目にお会いした時、私はあなたにそう誓いました。
8歳のあなたは楽しみにしてるわと、その日の穏やかな日差しのような優しい笑みを浮かべて私と約束の口付けをされました。
その時は、私はまだ口付けというものの意味を理解していなかったので、あやふやに微笑み返しましたが、それからと言うもの、あなたへの想いは募るばかりでした。
家族ぐるみでの親交を重ね、幾度もお会いする度、私はあなたとの格の違いを思い知って参りました。

ここ数年はお手紙だけのお付き合いでしたが、私はあなたを目標に努力を積み重ねてきたつもりです。
勉学だけでなく、近衛隊長直々の教えで剣や弓の腕も磨き、領民との触れ合いも欠かしませんでした。

 

そんな折です。

我が父の領地とプラナバリー公領に隣接する空白地へと、唯一の趣味である狩りを行う為に向かったところ、
あなたの一行を発見してしまったのは到着してすぐのこと。

私は一瞬、体が竦みました。
しばらく見ないうちにすっかりお美しくなられたあなたを見紛うはずもありません。
「フルスさ・・・いえ、フルーセン姫!ご無沙汰しております!」
供を引き連れていることを忘れ、思わずいつもの呼び方で呼んでしまうところでした。
馬を近づけながら大声で呼びかけた声に、優雅に振り向かれた馬上のあなたの微笑みはあの頃と同じ。
しかし今のお美しさはかつての比ではなかった。
緩く波打つ黄金の髪、大人のようにも子供のようにも見えるお顔、最後に見た日の面影を残したままの微笑。
「まぁ!ウェル!?すっかり大きくなって・・・本当に久しいわね。」
フルスさまも狩りなのか、優雅なドレスではなく、チュニックにレギンス、革の胸当てといった動きやすい出で立ちでも凛とした雰囲気が滲み出ていらっしゃることに、胸が高鳴ってしまう。

しかし、フルスさまの後ろのお供に気づき、私は慌てて馬を降りる。
「失礼致しました。ガルトラン公爵が娘、ウェランシア・モルフェディオにございます。」
私の供も、後から私以上に慌ててやってきて、正式な敬礼を行う。
「よくできました。いい子ね、ウェル。」
ぱちぱちと手を鳴らして喜ぶ笑顔のあなたの言葉に、私は素直に照れてしまう。
「みんな、気が変わったわ。今日はウェルと共に参ります。供は無用よ。」
後ろを振り返ってよく通る声で下された指示に、従者が慌て出す。
「フルーセン姫のご意向だ。従いましょう。」
私が出した指示に、ここに辿り着いたときよりも更に慌てふためく3名の私の供。

「フルスさま、お供を外してしまって本当によろしかったんですか?」
栗毛の愛馬の歩調を、名血統と思われる白馬に合わせて馬上のお方に問いかける。
「えぇ。もちろんよ。あんなお目付けがいては折角のウェルとの出会いが台無しですもの。」
フルスさまは相変わらず穏やかな笑みを湛えたまま、金色の髪を微風に揺らしながら手綱を繰る。
「こ、光栄です・・・」
そのお言葉が嬉しすぎて顔向けできず、向いた正面へと私の心だけがギャロップしてしまう。

「それにしても、ウェルもすっかり綺麗になってしまって。見違えたわ。」
「そんな、私などとても・・・フルスさまの足元はおろか、辿り着くことすらできません。」
ぶんぶんと頭と両手を振って否定する私がおかしかったのか、フルスさまはグラスが弾けるような屈託の無い笑い声を上げて馬の鞍を何度も叩かれる。
フルスさまのように端正な顔立ちの白馬も、それに釣られたのかブルルッっと一声鳴いた。
「まったく。お世辞まで上手になってしまって、すっかり大人ね。ウェルったら。」
「お世辞では・・・ありません。フルスさまのお美しさに敵う者など・・・」
口を尖らせて反論しても、子供の言い訳にしかならなかった。

馬を進めながら話し込むうちに、私たちは人間以外の領域である渓谷の森に差しかかろうとしていた。
「ところでウェル。大人になったといえば、お化粧くらいはしたことがあるでしょう?」
あまりにも唐突な質問に、一瞬言葉に詰まる。
「公式の場に出るときは使用人に施してもらいますが、平素はご覧の通りで、お恥ずかしい限りです。」
正直、化粧など私には面倒なものとしか思えない。
「あらあら。それはいけないわ。では、今日はわたくしがウェルにお化粧をしてあげましょう。」
フルスさまはそう仰ると馬を止め、軽やかに大地へと降り立たれたので、私も馬を下りて後に続く。

フルスさまは背の低い木を掻き分けると、小指の爪ほどの真っ白なトリロリの実を数個私に差し出した。
「ウェル。この実を知ってる? ちょっと変わった使い方が出来るのよ。」
トリロリの実・・・確か「魔染めの実」という別名があることで知られている、さして珍しくない植物。
魔力の源に反応して様々に色を変えると言う伝説があるが、実際には白以外の色で発見されたこともなく、単なる迷信だと伝わっている。
現在では精製して白粉として使われたりもするが低品質ゆえ一般的ではなく、いわゆる雑木の類と見られている。
「白粉・・・ですか?それなら・・・」
反論しようとする私の目の前にフルスさまのお顔が近づき、思わず息が止まる。
「いいえ・・・さぁ、目を閉じて。動かないでね。」
諭すようなお声に、私が逆らえようはずも無かった。

目を閉じると、余計にフルスさまの気配を感じとってしまう。
渓谷にこだまする鳥の囀りよりも、私の鼓動は遥かに大きい。
指先と爪の感触が瞼に触れて優しく撫でるように動く感じに、何を勘違いしているのか呼吸が速まって来る。
頬と額にもフルスさまの繊細な指が何度も触れ、顔を逸らさないように必死で直立不動を保つ。

「そんなに硬くならないで。大丈夫よ、ウェル。」
思った以上に近い場所からそっと囁きかけられ、ピクリと首筋が震える。
そして唇に・・・指が触れた瞬間、私はつい声を漏らしてしまう。
触れていた指が驚いたように離れて、自責の念がどさどさと降りかかる。
な、なんてはしたない!
そのようなつもりなど毛頭、微塵も、これっぽっちも抱いてなどおりません!!
私のそんな心中の悶絶を知る由も無く、フルスさまはふふっと笑われて再び私の唇に触れた。
その感触は嬉しくて、唇を撫でられるだけで体の内側が熱くなってくるような、魅惑の愛撫。
顎に当たるフルスさまの息にさえも反応してしまいそうな私を、どうぞお許し下さい・・・

「はーい。かーんせーい! 鏡持ってくるわね。」
涼やかなお声で目を開くと木漏れ日が眩しくて、きっとそのせいで今にも腰が砕けそうなのに違いない。
とたとたと白馬に駆け寄って鞍袋を漁ったフルスさまは、高級なガラス製の鏡を私の目の前にかざす。

「・・・・・・!!」
こんなことはありえるのだろうか。
目の上の際は茶色く染まり、少し日に焼けていた額と頬は焼ける前の色を取り戻し、なにより鮮やかな紅桃色に染まった唇からは目が離せなくなってしまう。
「素敵よ、ウェル。やはり元が可愛いとお化粧で引き立つわね。」
木々の間を抜ける爽やかな風の様に微笑むフルスさまの落ち着きようと、私の慌てようはまさに対照的だった。
「こ、これは一体・・・?」
ちらちらと彷徨う視線に映りこんだのは、キラキラと虹のように変幻自在に色を変えるフルスさまの指先。
「この実の果汁、わたくしが触れると思った通りの色に変わるのよ。それにいい香り。」
煌めく指先を鼻先に寄せて、再びフルスさまが微笑まれる。

「まさか、フルスさま・・・魔力に、お目覚めに・・・?」
森の奥へと歩を進めながら恐る恐る問いかけても、あなたは相変わらず優しい微笑を浮かべたまま。 しかし言い伝えは本当だったのだ。
ただ、実の色が変わるのではなく、果汁の色が変わるだけだったので誰も気づかなかったという事だろうか。
「ええ、そうみたい。でもね、それでちょっと困った事になってしまって・・・。」
それはそうでしょう。
まさか王族の血を引くものが魔力に目覚めるだなんて前代未聞だ。
「ウェルは、この近辺に住む”魔力喰い”と呼ばれる怪物を知ってるかしら?」
「はい。噂の程度ですが古来よりこの地の奥に潜んでいると・・・」
”魔力喰い”とは異常なまでに魔力に執着する人型の怪物で、知能は低くないが、好戦的。
己の体内に魔力を取り入れることで、自らにその力を宿す事が出来ると妄信しているらしい。
混乱する頭を必死に静めながら、私は冷静に脳内辞典のページを繰りつつ返事を返す。

そして、頭の中で、全てが、繋がった。
軽装備のフルスさまとこんな場所で突然の再会、魔力の目覚め、”魔力喰い”・・・

その時だった。
少し離れた木陰ががさがさと音を立てたことにハッとなり、私は振り返る。
本能的に危険な雰囲気を感じ取った私は、背中の狩猟弓を抜き取り矢を番え、木陰に向かって弦を引き絞る。
そこからゆらりと姿を現したのは、まさに辞典で見たことがある”魔力喰い”そのものだった。
森での生活に適した薄緑の、筋肉質な身体は人間の子供程度の大きさ。
だが人間でないことは、その醜い頭部を見れば判る。
でたらめな方向に伸び放題の牙が口からはみ出し、眼球の色は人間のそれとは白と黒が逆だからだ。
呻き声と涎を垂れ流しながら、ゆっくりとこちらに錆だらけの短剣を向けて近づいてくる。

ヒュッと空を切る音がして、ぐらりとその生き物の体が傾く。
「ウェル・・・」
「フルスさま、あなたは私が一命に代えてもお守りします!」
私が放った矢はまだ距離があったものの、正確に”魔力喰い”の頭部を貫き、一矢の下に射伏せた。
だが、状況は気づかぬうちに悪くなっていたようだ。
草木を揺らす音は前後左右から巻き起こり、次々と同様の生き物がゆらゆらと姿を現したのだ。

「困りましたわね。ウェル・・・」
私の隣でフルスさまは、本当にそう思っているのか判らない穏やかな表情で仰った。
だが今は、微笑んでいらっしゃると見紛うような端正な横顔に見惚れてなどいる場合ではないのだ。

”魔力喰い”との距離があるうちに、私は森の浅い方から湧き出た一団に次々と矢を射る。
『まずは退路を確保する。』近衛隊長から教わった、逃げながら戦うことの基本。
馬を置いてきていなければ強引に突破することも出来たはずだが、無いものを嘆いても仕方が無い。
余計なことに気を回したせいか、焦りで精細を欠いた矢は思ったほどの数を仕留められない。
まずい、左右から迫ってきている・・・

その時だった。
フルスさまは突然しゃがみこみ、大地に手をつけてなにやらぶつぶつと呟き始めた。
視界の端でそれを気にしつつも、私は最後の一矢で一体の喉笛を射抜いて沈める。
そして、唐突にそれは起こった。

ざわざわと地面の草や枯葉が音を立て、左手からやってきた一団の足がガクンと突然大地にめり込んだのだ。
慣性で地面に倒れこんだ一団は、意味不明な叫び声を上げながらもがいている。
「はぁ・・・はぁ・・・こっちはしばらく大丈夫よ、ウェル。」
こんな状況でも微笑を絶やさないフルスさまに小さく頷き、右手から迫ってきた一団に向けて剣を抜く。
我が家に伝わる魔力を秘めた剣の白銀の煌めきに、怪物どもが更なる奇声を上げる。

「てやぁぁぁぁぁぁ!!」
その先頭に向かって駆け寄り、袈裟懸けに切り結ぶ。
しかし、錆だらけの短剣で私の剣を受けるなど不可能なこと。
白い軌跡を残して振りぬかれた剣は、苦も無く短剣ごと怪物の身体を切り裂く。
「ギャビッ!!」
どうと倒れる怪物の後ろから迫る集団に踊りこみ、私は自らを奮い立たせるときの声を上げながら剣を振るう。

私の後ろでは、なにかドガボンと大きな音がしたが、今は自分を取り囲む集団に意識を集中しなければ。
後ろから飛び掛ってきた怪物を避けて足を引っ掛ける。
足元に倒れた仲間に阻まれて空を切った左側からの斬撃の隙を突いて、怪物の首を刎ねる。
返す刃で足元に転がった怪物に止めを刺し、肉と骨を貫く鈍い感触。
その攻撃の余勢を活かして正面から来た怪物に体当たりし、同時に自分の足元のバランスを整える。
フルスさまから離れすぎぬよう、慎重に間合いを計りながら怪物を切り伏せていく。

「はぁ、はっ・・・フルスさま! 大丈夫ですか!?」
見ることが出来ない後ろへ声をかける。
返事は無かったが、代わりにざわざわと草木が異常なざわめきを立てるのが聞こえ、少し安心した。
盾があればもう少し楽に戦えるのに・・・
そう思った私は足元の枝を蹴り上げ、左手に逆持ちする。無いよりはましだ。

再び襲い来る敵の頭部に流星の如き輝きが舞い降りて、硬い感触が手に響く。
左からの突きを木の枝で絡め受けて、投げつけるように突き返す。
右側を一閃して身体を入れ替え、先程突き返されて倒れこんだ怪物の頭に剣を突き立てる。
ぐしゃりと飛沫を上げて潰れたそれを直視しないようにステップを踏み、構え直しながら向き直る。
それから何度か剣を振るううちに、足元に転がる怪物の数が増えてくる。
全身を返り血に染めながら剣を振るう私の前から徐々に怪物が距離を取り始め、無闇には踏み込んで来なくなる。
大きく肩で息をしながら集団に睨みを利かせると、数匹残った彼奴等は恐れを為したか、森の奥へと逃げて行った。

「はっ、はぁ、はぁっ・・・フルスさま!お怪我は・・・」
振り返った私の眼に飛び込んだ景色は、あまりにも異様だった。
大木が歪み、大地はえぐれ、方々から伸びてきた蔦が身の程を知らぬ哀れな怪物たちを木から吊り下げていた。
「大丈夫よ、ウェル。それより酷い格好になってしまったわね。」
白くたおやかな手が私の頬を撫でて、汚らわしい返り血を拭い取る。
この美しさと、凄絶な戦跡と、優しさと、残酷さと、私の中でぐるぐる回る価値観の、全てがこの方なのだと、理解するまでに数呼吸の時間が掛かった。
フルスさまは立ち尽くす私にそっと口づけをされて、ありがとう、と自らが汚れることも気にせず、疲れきった血塗れの私を抱きしめて下さいました。

「フルスさま。あなたは最初から、あの怪物たちと戦うおつもりだったのですね?」
馬の歩調を合わせながら、もと来た草原を戻る途中で、私は問いかけた。
「いいえ。違うわ。」
どこと無くいつもと違う微笑み方をして、フルスさまは真相を打ち明けられた。
「本当はね。命に代えた封印を施すつもりだったの。」
「なっ・・・!!!」
「”魔力喰い”がわたくしの目覚めを嗅ぎ付けたのは二月ほど前。開眼したときに迸らせた魔力におそらく気づかれてしまったのでしょう。
我が領内で何度も見かけられるようになり、民にも被害が出始めました。」
知らなかった・・・
「奴らは数も多く、兵士を無駄に失う事になるくらいならば、わたくしは自らの命を賭して我が民を守らねば
ならないと思い立ったのです。」
「そんな・・・あなたのそのお力があれば、兵を率いて殲滅することも出来たはず。 なのになぜ・・・」
フルスさまの不可解な行動に、私は首を傾げた。
民の為とはいえ、失う必要のない命を粗末にするなんて、あってはならないことだ。
「理由は二つ。一つは、王家の血筋に魔力持つものが現れたという事が許されるかどうかという事。」
あくまでも穏やかに、沈み行く夕日の色に染まったお顔は慈愛を湛えた優しい笑顔。
「そしてもう一つは・・・」
一瞬言葉を区切り、ちらりと私の目を見て、フルスさまは仰られた。

「2年後に控えた結婚がね・・・イヤだったの。」
それは、貴族の務め。
当たり前だが、いずれ私にも降りかかるであろう現実。
「だって、本当に好きな人とは結婚はおろか、会う事さえままならなかったというのに・・・」
想い人がいらっしゃるのならば、その苦悩は計り知れぬでしょう。
私は、そのような感情を抱くことも無いまま、貴族として当然の人生を歩むことになるかもしれないのに。
「フルスさま・・・私にはそのような経験がございませんが、お察し致します。」
「ありがとう。ウェル。」
その笑顔に隠されたものに気づき、私にはそれが重く感じられるようになってきました。

「でもね、先程解ったのよ。ウェル・・・好きな人の為には、戦うことを恐れてはいけないってね。」
「はい。ご立派なお考えです、フルスさま。私は、あなたを守れてよかったです。」
私が浮かべた微笑に、フルスさまのお顔に残っていた重さや痛みのようなものが、少し和らいだように思えた。
「わたくしもよ。ウェル。あなたを守る為に、戦わないとって。好きな人を守らないとってね。」
そうですよね。好きな人を守る事こそ、戦いの・・・

・・・ん?

どういう意味ですか、という言葉が出てこず、ただ見つめ返してしまった。
「今日、申し合わせも無くウェルに鉢合わせて、好きな人に最後に出逢えて良かったって思ったの。
だからせめてもの思い出を作りたくて、二人きりになったんだけど・・・」
は、はい・・・? ということは、やっぱり最初から・・・
「もし奴らに出会ったら、ウェルだけをなんとしても逃がすつもりだったわ。
でも、さっきのウェルの言葉があまりにも格好良くて、聴いた瞬間、わたくし胸が締め付けられるような想いに満たされてしまって、結局一緒に戦ってしまったのよ。」
あの・・・ドサクサですけど、私、今、告白されてますよね?
フルスさま、ご自身の発言にお気付きでしょうか?

「でも、こうなっては”魔力喰い”との戦いは避けられないでしょう。我が民にも迷惑を掛けてしまうわ。」
領民を想うフルスさまの微笑みは、悲壮な覚悟にも取れた。
「フルスさま、その件は父上に相談致します。父上であれば、必ずや内密にお力添えして下さるはずです。」
「そう・・・ね。ありがとう。ウェル。好きよ。」
今日一番の微笑が私の心臓を正確に射抜き、急に顔が熱くなってくる。
慌てて正面を見れば、投石器ですら届かぬ距離からゴブレットを片手に従者たちが手を振っていた。

フルスさま。私も必ずや、あなたのお力になります。
ですからその微笑だけは、どうぞ絶やさないで下さい。
いつまでも・・・

fin





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あとがき
はじめまして、もしくはこんにちは。
Valuable☆Relationの 湧水 まりえ と申します。
縁あって、相互リンク記念と言う事で一筆奏上、シンケンジャー致しました。
『ファンタジー』『姫×姫』というお題を頂きまして、湧水初☆ファンタジーモノでございました。
剣と魔法出しとけばいんじゃね?的な浅い認識なので、期待された方はごめんなさい。
生真面目ニブ姫と天然魔法使い姫でしたが、なんかすごい量書いてしまいました(^^;

感想など抱いて頂けたら青白様宛てにどうぞ(逃)
ついでに私(の作品)に興味を持って頂けたら、リンクからお越し頂けます。
なんてちょっと宣伝してみたりしました。てへっ☆

青白様には突然の申し出にも拘らず、快くお題を出して頂き感謝しております。
今後ともよろしくお付き合いの程お願い申し上げます。
湧水まりえ 拝




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