艦隊これくしょん


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ああ愛し

天島




 私と天龍は仲が悪いと、周りの人たちは思っているらしい。
「おーい、島風ぇ!」
 船のデッキにて、手すりに顔を乗せてぼんやりしている私を、誰かが呼んだ。振り返ると、同じ駆逐艦の陽炎が手を振りながらこちらに近づいてくるところだった。
「こんなとこで何してんの? みんなもう中でくつろいでるけど」
「別に何も。海を見てただけ」
 私は海の方へ視線を戻す。夜の空の下で、海面は深い黒に染められて小さく波立っていた。出撃を終えて、今船は鎮守府へと戻っている最中だ。この静かな様子だと、敵艦と出くわすこともなく無事に帰れそうだった。
「ふーん。あ、ちょっと聞きたいことがあるんだけど、いい?」
 隣に並んできた陽炎は、快活に笑って尋ねてくる。
「いいけど、何?」
「島風ってさ、天龍さんのこと、嫌いなの?」
 何とも突拍子のない質問だった。私は出来るだけ不可解を表情で表して彼女を見た。
「……いきなり、何なのそれ」
「だってあんたさ、いっつも天龍さんに咬みついてるじゃんか。犬猿の仲だってみんな言ってるよぉ?」
 手すりに背中をもたれた陽炎がにやにやしながら私を指さす。私は眉を顰めた。
「私が咬みついてるんじゃないってば。向こうから突っかかってくるの」
 そう言った途端、今朝方、天龍と出撃前にしたやり取りを思い出した。
『おい島風、あんまりはしゃぎすぎて破損したりするなよな』
 などと少し馬鹿にしたように言ってくる彼女に、カチンときた私もつい言い返してしまった。
『あんたこそ、遠征中に怪我して泣いたりしないでよね!』
『おい、オレがいつ泣いたんだよ。いつもぴーぴー泣いてんのはお前の方だろ?』
『はぁっ? 私が泣いたことだってないっつうの!』
 売り言葉に買い言葉の繰り返しで、結局お互いにそっぽを向いたまま出てきた。そんなやり取りは日常茶飯事だから、特段気にしているわけでもないし、今だって冷静に思い返せるくらいには腹の虫も治まっていた。
「まあ、どっちがどうとかどうでもいいけどさ。あまり喧嘩ばっかりしてるのもよくないと思うけど? 同じ鎮守府の仲間なんだし、仲良くしなくちゃね」
 じゃあそういうことで、と歩きだした陽炎は船内に戻って行く。私はため息をついてその背中を見送った。ほとんど余計なお世話だった。
 私は船の先端、やがて鎮守府が見えてくるであろう方角へじっと目を凝らした。微かに灯りが見えてきた気がする。やっとこれでシャワーを浴びられる。潮風で体がべたべたして仕方なかった。
 あいつは、もう帰ってきているのだろうか。
 ふと頭を過ぎった。もしかしたら今頃夕食にでもありついているかもしれない。
 ほんの少しだけ、胸が高鳴っているのを自覚する。何だ嬉しいのか、とまるで他人事のように思った。
――あまり喧嘩ばかりしてるのもよくないと思うけど?
 先ほど陽炎に言われたお節介な助言を思い返す。
「……喧嘩ばっかしてるわけじゃ、ないし」
 誰にも聞こえないように、小さく呟いた。


「はぁっ、疲れたぁ……」
 シャワーを浴び終わった後、手早く髪を乾かした私はベッドに倒れ込んだ。まったく飾り気のない黒いキャミソールと白いショーツ。それがいつも寝る前の私の格好だった。だが、まだ眠るつもりは毛頭ない。
 そろそろかな、と思う。あいつも部屋を出て、こちらに向かっている頃合いだろう。
 他の艦娘たちは寮の部屋を二人で一つとされている。だが他に姉妹艦もいない私はこの少し狭い一人部屋を当てがわれていた。だからこういう時は、とても便利だ。
 やがて軽いノックの音が二回、聞こえてきた。私は素早く体を起こし、ベッドに座ったまま入り口の方に呼びかける。
「……開いてる」
 すぐにドアが開いた。ぎこちない足取りで天龍が入ってきた。もう何回も来ているというのに未だ慣れないらしい。寝巻代わりの紺色のジャージに、眼帯はつけたままという変な格好だった。
「……おう」
「……ん」
 そっけない挨拶の後、天龍は私の隣に腰かけた。落ち着きなく両手の指を擦り合せている。
「……今日の戦果はどうだった? 怪我とかしなかったか」
「いつも通り。敵の攻撃なんてかすりもしないわ」
「飯はもう済んだのか? 風呂は?」
「さっき食堂で適当に済ませたから大丈夫。入渠の必要もないからシャワーだけ入った」
 当たり障りのない問答が続く。もうそろそろ十分だろう。私は焦れていた。
「ちょっと天龍……」
 声を掛けた時、天龍の腕が伸びてきてそのまま抱き寄せられた。正面から、体と体が隙間なく密着する。背中に回った彼女の腕には強すぎるくらい力が込められていた。
 柔らかい、と触れた彼女の感触にぼんやりと思う。包み込まれてみると、改めてその華奢な体つきがよくわかる。手を回した腰も随分細かった。男みたいな恰好をして誤魔化しているのだろうが、彼女もやはり自分と同じ女なのだ。
 ふわりと、柔らかい花の香りが漂った。彼女もシャワーを既に済ませたらしい。
「……疲れてないか?」
 耳元で囁かれた。耳朶に当たる吐息がこそばゆい。私は頷く。
「ん。平気」
「そうか。でも今朝は早かったんだろ? あんまり無理は……」
「ねえ、天龍」
 私は彼女の顔に近づき、その唇を奪った。すぐに舌を捻じ込み、少々乱暴に動かす。しかし彼女は絡みついた私の舌を自分の舌で快く受け止めてくれた。
 彼女の味が流れ込んでくる。私はそれを夢中で飲み下し、もっと欲しくなって更に舌先で掬い取っていく。唾液は生温かい。そのとろみが頭の芯まで沁みて、気が高まっていくようだった。
「ぷはっ。……おい、いきなりどうしたんだよ」
 口を離して、じっと天龍がこちらを睨んでくる。口ではそう言いながらも、瞳には情欲を宿した炎が小さく揺らめいていた。私は口元を歪めた。
「くっついてるのも嫌いじゃないけどさ……早くしてほしかったから」
 そう言って口元を汚していた唾液を指先で拭い、そのまま口に含んで舐めとった。じっと天龍の視線がその動きを追ってくる。炎の勢いが増したようだ。
「……ったく」
 彼女は頭を掻いてから、そっと丁寧な手つきで私をベッドに横たえさせた。そして覆いかぶさってくる。
「どうしてほしいんだ?」
 やや扇情的にこちらを見下ろして尋ねてきた。私は無表情のまま答えた。
「じゃあ……めちゃくちゃにしてよ」
 一瞬目を見張った天龍は、やがて苦笑いを浮かべた。
「どうなっても知らねぇぞ」
「いいよ。むしろ、そのくらいじゃないとね」
「……マセガキが」
 満更でもなさそうに悪態をついて、天龍は私に口づけた。


「ほら、脱がすぞ」
 雰囲気も何もなく言われたので、私はもそもそと上半身を起こして両手を上げた。彼女はするりと私の体からキャミソールを抜き取る。平坦な胸が露わになった。
「ちっちぇえな」と見ればわかることを口に出す天龍。私は下唇を突き出した。
「うるさい。つまんないことばっか言ってないで、さっさとしてくれる?」
「焦んなよ。まだ時間はたっぷりあるんだから」
 そう言って顔を寄せてきた天龍は、私の唇の表面をぺろりと舐めた。それから頬を舌でなぞり、首筋を通ってやがて体に到達する。ねっとりとした動きに体が勝手に反応してしまう。彼女の手が、胸を軽く掴んできた。
「揉み応えのない胸だな」
「しつこい」
「小っちゃいのは感度がいいって言うけど、どうなんだろうな?」
 指先で胸の先を突いてくる。こそばゆい。
「ん……ちょっと、天龍」
「ああ、悪い。こっちの方が好きだったよな」
 にやりと笑った彼女はぱくりと乳首を口に含んでしまった。歯の先で弱く引っ掻き、更には舌先が押しつぶすように弄んでくる。
「おっ、段々固くなってきた」
「じ、実況、しなくていいから」
「へいへい」
 ちゅるる、と今度は音を立てて吸い付かれる。舌先が円を描くように乳輪の形をなぞった。強張った背筋が微かに震えてしまう。彼女もそれに気づいているみたいだった。
「やっぱり、感じやすかったみたいだな」
 顔を上げた彼女が挑発的な笑みを浮かべる。ちょっと癪に障った。こいつはいつも一言余計なのだ。
「あんたも脱げば?」
 私がジャージのファスナーを下ろしてやると、彼女はあからさまに狼狽しだした。
「お、オレは別に脱ぐ必要ないだろ」
「いつもあんたばっかり触ってるじゃん。私にも触らせてよ」
「オレ、そういうの苦手なんだよ。お前だって知ってるだろうが」
「いいから」
 服の裾を掴んで離さない私に、結局彼女が折れた。頭を掻きながら体を起こした。
「……わかったよ。脱げばいいんだろ?」
 彼女は上着を脱ぎ捨てて中のシャツも頭から潜り抜けるように脱いだ。簡素なスポーツブラが現れたが、そこからは躊躇しているみたいだった。
 ああもう、じれったい。素早く腕を伸ばして、思い切りその布切れをまくり上げてやる。やや大振りな胸が、弾みながら姿を見せた。
「ちょっ、お前なぁ!」
「やっぱ天龍の、大きいね。見かけによらず」
 ブラを完全に外させてから、両手で胸を鷲掴みにした。あまり力を込めずに、ゆっくり揉みしだいていく。驚くほど柔らかい。癖になりそうな感触だった。
 ふと見ると、目を逸らしている彼女の顔に少し赤みが差していた。そういう反応をされると、少しいじわるしたくなってしまう。人差し指と親指で、強めに彼女の乳首を摘んだ。
「んあっ! おい、何すんだよ」
「なぁんだ。大きいのも感じやすいんじゃん」
 指先でくるくると固くそそり立った蕾をいじくり回してやる。その度に彼女の体が小さくぴくぴく揺れた。すっかり嗜虐心に油が注がれてしまった私は、いじっていた部分を先ほどの彼女のようにくわえ込んだ。
「んんっ……おい、やめろってば……」
 口ではそう言いつつも抵抗はしてこない。それをいいことにもっと彼女を虐めた。乳首軽く甘噛みして舌で転がし、空いている方の胸も荒めに揉み込んだ。おぼろげに彼女の鼓動が伝わってきた気がして、私の心臓も同じテンポを刻みだす。何だか頭がぼんやりしてきた。
「……いい加減に、しろっての」
 不意に天龍が、剥き出しのショーツの上から私のソコをなで上げた。完全に油断していた私は大きくのけぞってしまう。
「んああっ!」
「おいおい、いくら何でも濡れすぎじゃねぇか? これの上からでもはっきりわかるぞ」
 彼女の指が蠢く度にぐちゃ、ぐちょ、と粘ついた水音が聞こえる。彼女は形を確かめるように割れ目の肉を何度も擦り上げてきた。
「やだ、ソコは……っ」
「ダメだ。調子に乗った罰な」
 腰を持ち上げられ、ショーツがするすると脱がされていく。彼女は立てた私の膝を割って、足の間をのぞき込んできた。
「うわ、もうどろどろだな。太ももまで濡れて光ってる。全部丸見えだ」
「う、うるさい! バカ、変態!」
「変態はどっちだよ。こんなに濡らしやがって」
 湿り気を帯びたしなやかなものが触れてきた。彼女の舌だ。私の亀裂を指で大きく開いて、その中を緩慢な動きで探り始める。甘い痺れが全身に広がっていく。
「はぁっ、いやぁっ……てんりゅ……っ!」
 口を押さえつけても声が漏れだしてしまう。彼女は襞に溜まった粘液を掻きだし、じゅるる、と音を立てて啜った。お腹の奥が猛烈に疼きだし、悶えずにはいられない。
「天龍っ……もう、無理ぃ……」
「ああ、わかってるよ」
 そう言った彼女は体を持ち上げ、再び私を抱きしめた。素肌と素肌が直に触れ合って、そこから燃え上がるような熱さが伝わってくる。
 ふと、彼女の指がソコにあてがわれた。ぼんやりと潤んだ眼差しでこちらを窺ってくる。私は何度も頷き返す。
「……天龍の指、ちょうだい」
 天龍は小さく頷いた。二本の指が一気に私を貫く。意識が吹き飛ぶかと思った。
「かはっ……!」
 深みまで潜り、また浅瀬に戻るを彼女は激しく繰り返した。じゅぶ、ずるり、ぬちゃり。濁った音が私の鼓膜に貼りつく。
「天龍ぅ……強いよぉ……」
 中ほどまで差し込まれた指が、ぐっと上の壁を持ち上げた。腰が跳ね上がる。
「だめっ、だめぇ!」
「何でだよ。めちゃくちゃにしてほしいんだろ?」
 彼女がほくそ笑むのが見えた。ああ、と思う。彼女に支配されている。私の心は今、彼女の手の中でどくどくとその鼓動を刻んでいるのだ。背筋が震え上がった。
 彼女の指は私を掻き混ぜるように動き続ける。
「天龍……っ!」
 ぐっと彼女を引き寄せて、唇を重ねた。必死に舌を絡める。熱い。私に触れてくる彼女の全てが、溶かされてしまいそうなほど熱い。
 もう限界だった。
「島風……」
 私の名前が呼ばれる。その瞬間一気に奥まで指が刺さってきた。
「あぐっ……てん、りゅう……っ!」
 体が激しく痙攣した。果てのない高まりが押し寄せる。何も考えられなくて、ただずっと彼女の体にすがりついていた。
 しばらくしてから、ようやく私は我に返った。天龍が、こちらを覗き込んでいる。
「島風、大丈夫か?」
 また名前を呼ぶ。たまらなくなって私は彼女の首に腕を絡め、唇を塞いだ。触れるだけのキス。
「……今日、帰らないでくれる?」
 気づけば、そう口走っていた。
「帰らないで」
 ぎりぎり触れ合わない至近距離で、彼女の瞳にねだる。
 離れがたい。まだ一緒にいたい。そうしないと息までできなくなってしまいそうだった。
 天龍は大きくため息をついた。それから私の隣に倒れ込んで、横向きに抱きしめてきた。彼女の柔らかさを感じる。彼女の呼吸を感じる。彼女が脈打つのを感じる。この上ない安らぎが、私を満たした。
「ほんと、わがままな奴だな」
 間近で囁かれた声は途方もなく優しい。だから私は額を彼女の胸に擦りつけて甘えてしまう。
「うん。このまま、ぎゅっとしててね」
 天龍が私をそっと撫でてきた。目を閉じる。
 いつもより少し、ほんのちょっとだけでもいいから。今は朝が来てしまわないことを、願った。



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