艦隊これくしょん


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沈みゆく

川内那珂




 船はもうすぐ鎮守府に着くはずだった。
 川内は船内の狭い廊下を歩いている。足取りは少しだけ早い。この先の医務室で、妹の那珂が休んでいるはずだった。
 少し前に行われた戦闘で、那珂は敵艦の砲弾を受けて中破した。幸いギリギリのところで防壁を展開していたおかげで大事は避けられた。敵艦も退けてひとまず海域の安全も維持できたということで、そのまま鎮守府に引き返すことになったのだ。
 ――那珂、大丈夫かな……。
 足を進めながら、ふと思う。戦闘を終え、船に戻ってきたとき、怪我を負っていた彼女は同じ艦隊の人たちに心配されながらも笑ってみせていた。
『こんなの、ぜんぜんへっちゃらだよ。那珂ちゃんは無敵だから!』
 そう元気よく言っていたものの、川内は見てしまった。応急処置のため船内へと入っていく一瞬、俯いた那珂がどこか物憂げな表情を浮かべていたのを。
 直前まで明るく振る舞っていたから、見間違えかと思った。だがいつまでも彼女が甲板へと上がってこないのでよくわからない不安がこみ上げてきて、川内は様子を見に来たのだ。
 医務室の扉が見えてきた。時折船体に当たる波の音以外、廊下は静まり返っていて、何だか落ち着かなかった。
 ――別に何もないのに。那珂本人だって、大丈夫だって言ってた。
 それなのにこの胸騒ぎは何なのだろう。それを振り払うように川内は医務室の扉に手をかけ、ゆっくり開けた。ノックを、すっかり忘れていた。
 室内に、那珂がいた。隅にあるベッドに腰掛けて、こちらに背を向けている。小さな窓から入り込んだ夕日に照らされたその肩は、微かに震えているように見えた。
 川内は中に入り、彼女に近づいていく。
「……那珂?」
 声を掛けると、びくんと彼女は身を竦ませ、こちらに振り返った。
「川内ちゃん……」
 川内は思わず足を止めた。那珂は泣いていたのだ。赤く腫れた目と濡れて光る頬が、彼女がどれだけ涙を流していたのかを物語っていた。
「ち、違うよ……? な、泣いてたんじゃなくて今朝早かったから欠伸が止まらなかっただけで……えへへ……」
 那珂は明らかな嘘を並べつつ無理に笑ってみせようとする。包帯で覆われた両手でこぼれ落ちた涙を拭って、隠す。その笑顔はひどくいびつだ。
 そんな彼女の姿を見て、川内は胸の内が激しく騒ぎだしたのに気づいた。先ほどのような不安とは一線を画した感情。頭がかっと熱くなる。
 気づけば川内は、那珂をベッドの上に押し倒していた。
「きゃっ! 川内ちゃ……っ!?」
 すかさず横たわった体に覆い被さり、顔を近づける。そして押しつけるように唇を塞いだ。
「んっ……!」
 彼女の呼気を感じた。開いた口に舌を差し入れ、乱暴に内側を舐る。服の上から触れた柔らかな体が、驚愕に震えた。どこまでも湿った感触を舌先に感じて、味覚が痺れていく。
 弾かれるように口を離すと、銀色の糸がつうと引いて消えた。荒い息づかいが響いている。真下にある呆けた那珂の顔を見て、川内はようやく我に返る。
「ご、ごめ……、えっ……?」
 唐突に腕が首筋に巻き付いてきた。そう思ったら引き寄せられ、再び唇と唇が重なる。
 戸惑いつつも、川内は舌を差し出す。ぎこちないながら、少しずつ那珂の舌が触れて、巻き付いてきた。目の中で、閃光が弾けたような気がした。
「……那珂……」
 お互いの息遣いだけが聞こえている。微かに香る火薬の匂いは、きっと彼女からだった。それすらもぼんやりした川内の頭に熱を促してくる。
 ただ求むるままに、川内は那珂の唇を夢中で吸い上げた。

  *

 自分が那珂に対して普通じゃない感情を抱いていることを、川内は自覚していた。
 誰に対しても、姉妹艦である神通や自分にも常に笑顔で接する彼女。明るく振る舞う彼女。その内側で一体何を思っているのか、気になって仕方なかった。そんな好奇心は、いつしか劣情へと少しずつ変わっていった。
 那珂を知りたい。誰も知らない彼女の、秘密の場所に触れてみたい。
 ――あの子を、滅茶苦茶にしたい。
「……怖いよ、川内ちゃん……」
 俯いた那珂は、絞り出すような声でそう言った。川内はソファに座る彼女の隣で、ただ黙って聞き耳を立てている。
 そこは、来客用の応接室だった。普段使われない場所なので人がやってくる心配もない。カーテンで昼間の光が遮られているせいで、室内は薄暗かった。
「……もう、戦いたくない……。やだよもうこんなの……。何で那珂たちばっかり、痛い思いをしなくちゃいけないの……?」
 膝の上でぎゅっと握りしめられる拳。震える彼女の瞳から一筋、静かに涙が伝っていった。
「……大丈夫だよ、那珂」
 川内は静かに囁いて、優しく彼女を抱きしめる。
「私がずっと、傍にいてあげるから」
 顔を近づけて、頬を滑り落ちる涙を舌先で拭ってやる。ほのかに感じたしょっぱさに、少しだけ目眩を覚えた。
 そのまま首の側面へと下りて、べろりと薄い皮膚を舐め上げた。
「川内ちゃ……っ」
 甘い吐息が漏れる。見上げると、彼女は期待しているような光をその揺れる瞳の中に宿していた。
 こういうことは、初めてではない。彼女もこのあとのことを、きっとわかっているのだろう。
 川内はぐいっと腕で那珂の体を引き寄せ、口づけをする。答えるように開いた柔らかな唇の隙間に、舌をうずめていった。
「んっ……ふ……」
 舌と舌が結びつく。どちらかが蠢く度にざらついた表面がこすれて、ぴちゃり、と淫らな音が口の中に響いた。それがたまらなく、気分を高揚させていく。
 那珂の服のリボンを手早く解いて、口を離す。
「……脱がすよ」
 言うと彼女は頷いて手を上げる。頭から引き抜くように、衣服を脱がしてやった。上半身がブラと長手袋だけになった彼女は、少し気恥ずかしそうに視線を逸らしている。
「こっち見てよ、那珂」
 言って川内は自分の長手袋だけ外し、彼女のウエストラインに手を滑らせる。ゆるやかな曲線を描く、ほっそりとした腰。那珂がぴくりと震えた。
「くすぐったい?」
「……少しだけ」
「じゃあ感じてるんだね」
 指先で腹の表面をひっかいてから、撫で回す。那珂は唇をきゅっと結んで堪えるように自分に触れる川内の手を見つめていた。
 やがて川内はソファの上に伏せるようにして、まず彼女の臍に唇を押しつけた。その周りにも、何度かキスをする。
「んっ……あっ……」
 キスを続けていると、那珂の口から吐息が漏れ出すのが聞こえてきた。川内は密かににやりと笑い、胸元に口をつけながらブラの上からそのなだらかな膨らみを掴んだ。
「ここも、してほしい?」
 尋ねると那珂はあからさまに視線を泳がせたもののじっと黙っている。悪戯心が湧いて、更に強く指を食い込ませた。少し固さの残る少女特有の胸の感触が伝わってくる。
「……っ! い、痛いよ川内ちゃん……」
「だって那珂が、変な意地張ってるから」
「いじわる……」
「ごめんね。……じゃあこれも、外すから」
 背中に腕を回して、ホックを解く。あっけなくブラが落ちて、那珂の柔肉が完全に露わになる。
 あまり豊かとは言えないけれど、形の整った胸。その先端は薄い桃色に染まり、ピンと上を向いている。少しだけ、固さを帯びているようだった。
「やっぱり、期待してた……?」
 胸の側面に手を添えるようにして、親指で突起を弾くようにいじる。大きく彼女が身をよじるのがおかしかった。
「ふあっ……そ、そんなこと、な……っ」
 それでも強がる彼女に焦れて、川内はいきなりいじっていた部分を口に含んでしまう。
「あんっ! やぁっ……!」
 舌で転がせば、そこはたちまち固さを増していく。わざと音を立てて吸い上げてやり、空いているもう片方も強く揉みしだいた。
「は……あっ……、川内ちゃん……」
 那珂の声には熱がこもり、頬にはすっかり赤みが差している。もういいだろうか、と川内は顔を離してそっと彼女をソファの上に横たえさせた。
 そして履いたままだったスカートに手を入れ、奥底にあるショーツの端に指をかける。
「あっ……」
「腰、上げて」
 言われたとおり腰を浮かせた彼女から、ショーツを剥ぎ取る。スカートを捲り上げて、立たせた膝を大きく左右に割った。
「や、やだ……」
 那珂は羞恥を露わにしたが、川内はわざと前かがみになってまじまじとそこをのぞき込んでやる。
 薄く茂った繊毛の下、二つの小振りな花びらが少しだけ開いている。隙間から見える真っ赤に色づいた粘膜に、鼓動が高鳴った。
「濡れてるじゃん。……那珂は、悪い子だね」
 肉襞の内側に指をめり込ませれば、ぬちゅり、と粘ついた水音が聞こえた。今までで一番大きく那珂が震える。
「んっ! ああっ……!」
 蜜で濡れそぼった花園の中をぐちゃぐちゃとかき回す。指で襞を広げてやれば、開いた蜜口からとろりとまた新たな粘液がこぼれ落ちた。川内はごくりと唾液を飲み下す。
「入れるよ、那珂……」
 上擦った声で言う。那珂は迷ったようにじっとこちらを見下ろしていたが、やがて小さく頷いた。
「いい子だね……」
 人差し指と中指を一緒に蜜口にあてがう。そのままゆっくりと先の方を中に沈み込ませた。
「んくっ……! はっ……!」
 那珂がぎゅっと目を閉じて体を強ばらせた。これまで少しずつ慣らしてきたとはいえ、入り口の方は解れきってない。無理に押し広げているのも同じだった。
「那珂、痛い……?」
「うっ……ううん、平気。だから……」
 目を開き那珂は川内を見る。苦悶に歪んだその表情は、驚くほど官能的だった。
「……抱き、しめて。川内ちゃん……」
 苦しそうに彼女は言う。川内は頷いて、横たわる彼女に覆い被さった。服の布越しに、柔らかな彼女の体温が伝わってくる。
 片腕で那珂を支えてやり、入れたままだった指を緩慢に蠢かせ始める。
「あっ! んっ、ふぁっ……!」
 奥の内壁を指で押し上げてやると、背を仰け反らせた那珂が両腕を巻き付けてすがりついてきた。そこは、彼女が好きな場所なのだ。
「ひっ……! そこ、はぁ……っ!」
 空いていた親指で、割れ目の先、膨らんでいる包皮をまさぐる。きゅっと皮を押し上げてやれば、充血して尖りきった肉芽が姿を現した。優しく指で爪弾く。
「だめ……川内ちゃ……っ! おかしくなっちゃ、う……っ」
 耳元にかかる湿った吐息。川内は彼女の髪を撫でてやる。
「大丈夫だよ。私に任せて。那珂のこと、守ってあげるから」
 彼女の温度がまた高まったような気がした。このまま、溶かしてほしいと思った。溶けだして彼女と、一つになってしまいたかった。
「んっ! ああああっ!」
 やがて抱きしめられながら那珂は背を弓なりにしならせ、震えながら硬直した。指が痛いほど締め付けられて、川内まで高まりに導かれそうになる。
 しばらくしてからぐったりと横たわって荒い息をつく彼女を、川内はずっと撫で続けていた。

  *

「姉さん、大丈夫?」
 ふと、おずおずといった様子で妹の神通が声を掛けてきた。夜の海上、川内たちは鎮守府周辺海域のパトロール中だった。
「大丈夫って、何が?」
 川内は何食わぬ顔で聞き返す。本当はわかっていた。那珂は今鎮守府の寮にいるはずで、同じパトロールを任された艦娘たちとも今は距離を離れている。自分にしか、聞かせたくない要件なのだろう。
 神通は迷った様子だったが、再び口を開いた。
「……姉さんと那珂、最近様子が変だから。何だかぎこちなくなったっていうか……。何か、あったの?」
 やっぱり、と川内は思う。自分たちのことを周りには気取られないようにいつも通り振る舞っているつもりだったが、同じ姉妹である神通は微妙な空気の変化を察知してしまったようだ。
 ――あのね神通。私と那珂ね、セックスしてるの。ほとんど、毎日。
 そう言ったら彼女はどんな反応を見せるだろう。軽蔑するだろうか。そんな考えが頭をよぎったが、もちろん口に出すはずもなかった。
「……大丈夫だよ、神通」
 川内は神通に近づいて、その髪に手を添えた。はっと彼女は顔を上げる。微笑み掛けてやった。
「別に、何にもないから。神通が心配するようなことは、何にも」
 ――これは私たちの――私の、問題だから。
 そんな言葉を呑み込んで、川内は笑みを更に深くした。

  *

 よくないことだとは、わかっているつもりだった。
 ――私はただ、那珂に自分の欲求を押しつけただけ。那珂はただ、すがる何かが欲しかっただけ。それだけだ。
「んっ、ふっ……はぁっ……」
 口から勝手に甘ったるい息が溢れる。横たわってむき出された川内の胸に、那珂が粘りつくように舌を這わせていた。
 カーテンが閉じられ、光が閉め出された応接室。自分たちは一体、いつまでこんなところで体を重ねるのだろう。
「気持ちいい? 川内ちゃん……」
 上目遣いで那珂が聞いてくる。彼女はもう川内の前でも泣かなくなった。その目には今、暗い影が横たわっている。
 お互いの存在に、足を引かれる様にずぶずぶと沈んでいく感覚。ダメだ、と思う。だが開いた口は、まったく別の言葉を紡いでいた。
「……うん、気持ちいい。もっと、頂戴……?」
 言うと那珂は嬉々とした表情になり、何も纏っていない川内の足の間に手を滑り込ませた。そして秘所から蜜を掬いとって、川内の前に汚れた指を翳す。
「すごい濡れちゃってるね、川内ちゃん……」
 こちらを見下ろす彼女は嗜虐的な視線を送ってくる。誰にも見せたことないであろう艶やかな表情に、釘付けになった。
「舐めて、綺麗にしてあげるね……?」
 彼女は足の間に顔を潜り込ませた。やがて敏感な部分に柔らかく湿ったものが触れて、川内は体をよじらせた。
 ――このまま、沈んでいこう。この子と一緒に、深い海の底まで。
 悦楽に満たされていく思考の中でそんなことを思い浮かべて、川内はまた小さく矯声を上げるのだった。




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